元カレ弁護士の恋事情
「……私は、絵のことはよくわかりませんが」

 しんと静まり返った会議室に久我さんの声が響いて、私は涙目で顔を上げる。

「たとえ完成していないラフ案でも、そこから新しい発想が生まれることもあるのでしょう。それを勝手に持ち出し、他人に渡していい理由にはなりません」

 曽根崎さんは、バツの悪そうな顔をしている。ほかの出席者も、口を挟むことなく久我さんの話に耳を傾けていた。

「これらはすべて、大谷さんが積み重ねてきた仕事であり、財産です」

 久我さんの言葉に、胸の奥が熱くなった。
 私が描いてきたものを、ちゃんとわかってくれる人がいる。それだけで、今までこらえていたものが溢れそうになった。
 久我さんは一度、室内を見渡してから静かに告げた。

「本件について、これ以上の主張がなければ、今後の対応については両社の代理人を通じて協議させていただきます」

 カネモトフーズ側の弁護士は、曽根崎さんに厳しい視線を向けたあと、小さくうなずく。
 こうして、話し合いはひとまず終了した。
 
 結局、曽根崎さんは私のスケッチブックを勝手に撮影し、そのデザインをカネモトフーズに持ち込んだことを認めた。
 彼は本当はデザイン職に就きたかったらしい。けれど、以前勤めていた東都ダイニングでは営業職に配属され、デザインの仕事に携わることはできなかった。
 そんな彼にとって、デザイン職として働く私は羨ましい存在だったのだろう。スケッチブックを見せた際、出来心で写真を撮ったのだという。
 その後、退職してカネモトフーズに転職し、念願のデザイン職に就いたものの、社内コンペでは思うような結果を出せなかった。追い詰められた末に、手元に残していた私のデザインを使ってしまったらしい。
 そして今回、東都ダイニングの新商品が公開されたことで、過去の不正が明るみに出ることを恐れ、今度は東都が盗作したのだと主張したのだった。
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