さくらの恋は、まだ終わらない。
届かない片想いと、終わらない初恋
春風に揺れる桜並木を歩きながら、私は何度目かの深い溜息をついた。
「ねえ、さくら! 聞いて聞いて、恋くんがさ——」
隣を歩く小鳥遊凜々花(たかなしりりか)の顔は、見ているこっちが恥ずかしくなるほどに真っ赤で、そして最高に幸せそうだった。
その“恋くん”とは、太田恋(おおたれん)。整った顔立ちで、誰にでも優しくて、そして——私がずっと、ずっと片想いをしていた相手だ。
よりによって、私の大親友である凜々花が、恋くんと付き合うことになった。
「……よかったね、りりか。お似合いだと思うよ」
「ほんとに? やったぁ! さくらにそう言ってもらえると、一番安心する!」
無邪気に笑う凜々花の横顔に、私は作り笑いを張り付ける。胸の奥がチクリと痛む。知っている。
恋くんがどれほど優しくて、笑ったときの目が優しくて、そして、私のことなんてただの「友達の友達」としか見ていないことも。
諦めなきゃいけない。そう頭では分かっているのに、彼の名前を聞くだけで、胸の奥の澱が熱くなって、どうしても忘れられなかった。
そんな私の様子を、少し離れた後ろから、冷めたような、でもどこか心配そうな視線で見つめている人物がいた。
「いつまでそんな引きつった顔してんだよ、さくら」
呆れたように声をかけてきたのは、幼馴染の日向坂湊(ひなたざかみなと)。
私と同じ「日向」という苗字(血の繋がりはないけれど、物心ついたときからずっと一緒の家族みたいな関係だ)で、ボサボサの黒髪に、ちょっと不機嫌そうな目をした男の子。
「……引きつってないし。りりかの恋路を応援してるの!」
「うそつけ。顔に『まだ未練タラタラです』って書いてあるぞ」
湊はそう言うと、持っていたペットボトルのキャップをいとも簡単に開けて、私の手に無理やり押し付けた。
「ほら、飲め。ため息ばっか吐いてっと、幸せ逃げるぞ」
「……ありがと、湊」
冷たいお茶が喉を通る。湊のこういう、不器用で、でも私の変化にはすぐに気づくところは昔から全く変わらない。
「ねえ、湊。私さ……忘れられないんだよね、まだ」
「……っ」
ぽつりと零した私の一言に、湊の足がぴたりと止まった。振り返った湊の瞳は、いつも意地悪を言うときとは違って、どこか痛切な色を帯びていた。
「……バカだな、お前は」
湊は小さく呟くと、私の頭にポンと乱暴に手を置いた。その手のひらの温もりが妙に心地よくて、私はまた、行き場のない切なさに胸を締め付けられるのだった。