さくらの恋は、まだ終わらない。
変わらない距離と、募る未練
放課後の教室は、夕日に染まってどこか気だるい空気が漂っていた。
黒板の隅に残された書きかけの数式をぼんやり眺めながら、私は窓の外に視線を落とす。中庭のベンチには、見慣れた二人の姿があった。
太田恋と、小鳥遊凜々花。
恋くんがふっと柔らかく笑い、凜々花の頭を優しくなでる。その仕草一つひとつが、かつて私に向けられたらどんなによかっただろうと、胸の奥を鋭いナイフで引っ掻かれたように痛む。
頭では分かっている。二人はお似合いだし、りりかは私の大切な親友だ。祝福しなければいけないのに、瞳の奥が熱くなって、視界がにじむ。
「……また、そこから見てるのかよ」
不意に頭上から降ってきた低い声に、ハッとした。
振り返ると、そこには日向坂湊が立っていた。いつの間にか教室に入ってきたらしい。湊は私の視線の先、中庭の二人を確認すると、不機嫌そうに眉間を寄せた。
「見てないよ。ただ窓の外が綺麗だなって……」
「嘘つけ。目が完全に泣きそうになってんじゃねえか」
湊はため息をつきながら、私の机の前にドンと鞄を置いた。そして、私の目の前に自分のスマートフォンを差し出す。画面には、コンビニの新作アイスの画面が表示されていた。
「ほら、行くぞ。甘いものでも食わないと、お前の顔がさらに曇って見てらんねぇ」
「……私、そんなに分かりやすい?」
「世界一分かりやすい。お前の考えてることなんて、昔から全部お見通しだバーカ」
そう言って、湊は私の手首を掴み、半ば強引に椅子から立たせた。
ぎゅっと握られた手首から伝わる体温が、妙に温かい。恋くんを想って冷えきっていたはずの胸の奥が、湊のせいで乱されていく。
帰り道の夕焼けは、昨日よりもずっとオレンジ色に染まっていた。
並んで歩く細い影が、たまに重なる。
「ねえ、湊」
「んだよ」
「……私、いつまでこうして引きずっちゃうのかな」
ぽつりと零した弱音に、湊の足がふっと止まった。
私もつられて足を止め、隣を見る。湊は夕日を背にしながら、複雑な目を私に向けた。その瞳の奥に揺れている感情の正体に、私はまだ気づけないふりをした。
「……いつまでも引きずってんじゃねえよ」
湊はぶっきらぼうにそう言ったけれど、その声はいつになく優しかった。
そして、私の頭に大きな手が伸びてきて、乱暴に、でも愛おしそうにクシャリと髪を撫でた。
「お前がいつまでもそいつを見てるなら……俺がずっと、お前の隣で怒ってやるよ。だから、そんな顔すんな」
胸が、ドクンと大きく跳ねた。
それは、恋くんを想うときとは違う、もっと激しくて、真っ直ぐな熱だった。