嘘つきな3人
昼休みを終えてからも、仕事は途切れなかった。請求書をまとめ、経費精算の内容を確認して、足りない書類があれば該当者に戻す。
気づけば、窓から差し込む光が少しずつ傾いていた。
「ただいまー」
聞き慣れた声と一緒に事務所の扉が開く。顔を上げなくても、誰だか分かる。
「おかえり」
「紅ちゃん。で、ちゃんと昼食べた?」
第一声がそれなのも予想どおりだった。
「食べたよ。……その確認、もういらなくない?」
「紅ちゃん信用ないからなあ」
朝みたいに目を逸らす必要はない。お昼は本当に食べた。
……伊久間くんからメッセージが届いて、後回しにするのをやめたから。
伊久間くんは自分の机へ鞄を置くと、そのまま所長のところへ向かった。外で何をしてきたのか、低い声で簡単に報告している。
私の食事をいちいち気にしている人と同じとは思えないくらい、仕事の話をしているときは真面目だ。
探偵という仕事をしている伊久間くんを、私はあまり知らない。何時に出るとか、どのあたりへ行くとか、帰りが遅くなりそうだとか。教えてくれるのは、そのくらいだ。
依頼の内容を聞いたことはほとんどないし、私も聞かない。私には私の仕事があって、伊久間くんには伊久間くんの仕事がある。
それ以上を知ろうと思ったこともなかった。