嘘つきな3人
クロッカスを出ると、外はもう暗くなっていた。
アパートまでの道を一人で歩くのは久しぶりだ。いつもなら隣に伊久間くんがいて、どうでもいい話をしているうちにあっという間に着くから、今日は何だかいつもより遠く感じた。
「おかえり」
玄関の前まで来ると隣の扉が開き、部屋着姿の伊久間くんが顔を出す。
「遅かったね」
「100円返してたの」
簡単に話すと、伊久間くんが一度瞬きをしてから笑った。
「紅ちゃんらしいね。そういえば、夜ご飯は?よかったらスープ食べない?また作りすぎちゃった」
「じゃあ、後でもらいに行くね」
伊久間くんは私と違って自炊をする。けれど頻繁に作りすぎてしまうらしい。そんな時は、よくお裾分けをいただいている。
一人になった部屋で鞄を置きながら、さっきまでのことを思い出す。100円を返しただけ。久我さんと交わしたのも、ほんの少しの会話だけだった。けれど。
『また来て』
という言葉が、頭に残って消えなかった。