恋は買収できません!~厄介な幼馴染CEOの強引すぎる溺愛~
㉒
それからいくつかの季節が通り過ぎたけれど、蒼真とは恋人にならないまま過ごしていた。
ある日の夜、お風呂も済ませてさっぱりした私が部屋のベッドに寝転がって雑誌を読んでいると、ノックの音が聞こえた。
「今いいか?」
「うん。入っていいわよ」
同じくお風呂上がりの蒼真はラフなTシャツ姿で、私の横に座った。ふわりと自分と同じ石鹸の匂いがした。
「来月の誕生日には何が欲しい?」
問いかけは去年と同じようでも、今の蒼真はあの頃と違う。この1年、変わろうとする姿を一番近くで見てきた私の答えは、もう決まっていた。
「お前のためならなんでも叶えてやる。言ってみろ」
「蒼真」
「ん? なんだ」
私の〝欲しいもの〟が呼びかけに聞こえた彼に、もう一度言ってやる。
「蒼真、あんたが欲しいって言ったの」
私は立ち上がり、机の引き出しに入れていたファイルを取り出す。蒼真の隣に座り直し、『妻になる人』の欄を書き込んだ婚姻届を手渡すと、彼の頬がじわりと染まった。
「……はぁ!? い、いきなり何言ってる」
(驚くだろうとは思ってたけど、まさかここまで動揺するなんて)
目に見えて狼狽えている蒼真に、ぽかんとしてしまう。
(こいつもこんな風になるんだ。自分からグイグイ行くのは慣れてるけど、私から来られるのは弱いってわけ?)
でも耳まで赤く染め、片手で顔を覆って俯く蒼真の姿を見て、改めて実感した。この男が、本気で私を20年以上も想い続けてくれていたのだと。
「なんでも叶えてくれるんでしょ。なら、私と結婚しなさいよ」
「……本気で言ってるのか?」
「当たり前じゃない」
私の言葉に蒼真が顔を上げ、こちらを見つめた。
「この1年、あんたがちゃんと私の気持ちを聞こうとしてくれたのは伝わってる。だから私、自分で決めたの。蒼真と結婚するって」
「千佳……」
蒼真は、私の名前が書かれた婚姻届を、そこに込めた想いまで受け止めるように見つめている。
あまりにも大切そうに見つめているから、なんだか私まで顔が熱くなってきて、照れ隠しのように口を開いた。
「それに、あんたも言ってたじゃない、いい区切りの年だって。30歳のうちに籍を入れておくのも悪くないかもなーって」
「はっ……そういうことにしといてやるか」
蒼真は頬を染めたまま、穏やかな笑みを浮かべて私に手を差し出す。
「ペンをくれ」
ボールペンを差し出すと、すぐに『夫になる人』の欄に記入した。
「懐かしいな。去年俺から渡した時は、ぐしゃぐしゃにされて投げつけられたもんだが」
「あの時のあんたの対応、ほんとありえなかったからね?」
「だが、お前はそんな男と結婚するわけだ」
「……やっぱりやめようかな」
「だめだ。もう言質は取ってある。署名済み婚姻届も俺の手の中だ」
冗談を交わしているうちに、蒼真はすっかり調子を取り戻したようだ。
「ちゃんと幸せにしなさいよ。私も、あんたを幸せにするって約束するから」
「お前が隣にいてくれるなら、それだけで俺は幸せになれる」
蒼真は、ふたつの名前が並んだ婚姻届を満足そうに眺める。
「つまり後は、俺がお前を幸せにし続ける限り、この契約は永久に有効ってわけだ」
「結婚を契約扱いしないでよ」
(まあ、こいつらしいか)
蒼真の文法を借りるならこうだ。私の心は誰にも買収できない。でも私は自分の意思で、こいつを人生の共同経営者に選んだのだ。
不敵な笑みを浮かべた蒼真は、私の腰を抱き寄せた。
「俺と結婚すると決めたんなら、もう我慢しなくていいな」
「え?」
「キス。してもいいだろ?」
(なっ……)
「そ、そんなこといちいち確認しなくていいから!」
「あー? お前の意志を尊重してやってるんだろうが」
ニヤニヤと楽しそうに口元を歪めているところを見ると、今の確認は絶対にわざとだ。
「……いいから、キスして」
「お前がそこまで言うなら仕方ないなぁ」
「調子に乗ら――」
文句を言い終える前に、唇を塞がれる。何度も啄むように触れ合って、名残惜しそうに彼が離れていく。
「っ、不意打ちは禁止!」
胸板を押して抗議しながら、蒼真の顔を見上げてはっとした。私を見つめるその瞳が、抑えきれない熱に揺れていたから。
「俺が何年待ったか、わかってるだろ。……今夜はキスだけで終わらせてやるつもりはないからな」
もう一度唇が重ねられ、今度はより深くまで求められて、私も広い背中に手を回した。
私たちが互いを想い合う限り、この恋は一生終わらない。
ある日の夜、お風呂も済ませてさっぱりした私が部屋のベッドに寝転がって雑誌を読んでいると、ノックの音が聞こえた。
「今いいか?」
「うん。入っていいわよ」
同じくお風呂上がりの蒼真はラフなTシャツ姿で、私の横に座った。ふわりと自分と同じ石鹸の匂いがした。
「来月の誕生日には何が欲しい?」
問いかけは去年と同じようでも、今の蒼真はあの頃と違う。この1年、変わろうとする姿を一番近くで見てきた私の答えは、もう決まっていた。
「お前のためならなんでも叶えてやる。言ってみろ」
「蒼真」
「ん? なんだ」
私の〝欲しいもの〟が呼びかけに聞こえた彼に、もう一度言ってやる。
「蒼真、あんたが欲しいって言ったの」
私は立ち上がり、机の引き出しに入れていたファイルを取り出す。蒼真の隣に座り直し、『妻になる人』の欄を書き込んだ婚姻届を手渡すと、彼の頬がじわりと染まった。
「……はぁ!? い、いきなり何言ってる」
(驚くだろうとは思ってたけど、まさかここまで動揺するなんて)
目に見えて狼狽えている蒼真に、ぽかんとしてしまう。
(こいつもこんな風になるんだ。自分からグイグイ行くのは慣れてるけど、私から来られるのは弱いってわけ?)
でも耳まで赤く染め、片手で顔を覆って俯く蒼真の姿を見て、改めて実感した。この男が、本気で私を20年以上も想い続けてくれていたのだと。
「なんでも叶えてくれるんでしょ。なら、私と結婚しなさいよ」
「……本気で言ってるのか?」
「当たり前じゃない」
私の言葉に蒼真が顔を上げ、こちらを見つめた。
「この1年、あんたがちゃんと私の気持ちを聞こうとしてくれたのは伝わってる。だから私、自分で決めたの。蒼真と結婚するって」
「千佳……」
蒼真は、私の名前が書かれた婚姻届を、そこに込めた想いまで受け止めるように見つめている。
あまりにも大切そうに見つめているから、なんだか私まで顔が熱くなってきて、照れ隠しのように口を開いた。
「それに、あんたも言ってたじゃない、いい区切りの年だって。30歳のうちに籍を入れておくのも悪くないかもなーって」
「はっ……そういうことにしといてやるか」
蒼真は頬を染めたまま、穏やかな笑みを浮かべて私に手を差し出す。
「ペンをくれ」
ボールペンを差し出すと、すぐに『夫になる人』の欄に記入した。
「懐かしいな。去年俺から渡した時は、ぐしゃぐしゃにされて投げつけられたもんだが」
「あの時のあんたの対応、ほんとありえなかったからね?」
「だが、お前はそんな男と結婚するわけだ」
「……やっぱりやめようかな」
「だめだ。もう言質は取ってある。署名済み婚姻届も俺の手の中だ」
冗談を交わしているうちに、蒼真はすっかり調子を取り戻したようだ。
「ちゃんと幸せにしなさいよ。私も、あんたを幸せにするって約束するから」
「お前が隣にいてくれるなら、それだけで俺は幸せになれる」
蒼真は、ふたつの名前が並んだ婚姻届を満足そうに眺める。
「つまり後は、俺がお前を幸せにし続ける限り、この契約は永久に有効ってわけだ」
「結婚を契約扱いしないでよ」
(まあ、こいつらしいか)
蒼真の文法を借りるならこうだ。私の心は誰にも買収できない。でも私は自分の意思で、こいつを人生の共同経営者に選んだのだ。
不敵な笑みを浮かべた蒼真は、私の腰を抱き寄せた。
「俺と結婚すると決めたんなら、もう我慢しなくていいな」
「え?」
「キス。してもいいだろ?」
(なっ……)
「そ、そんなこといちいち確認しなくていいから!」
「あー? お前の意志を尊重してやってるんだろうが」
ニヤニヤと楽しそうに口元を歪めているところを見ると、今の確認は絶対にわざとだ。
「……いいから、キスして」
「お前がそこまで言うなら仕方ないなぁ」
「調子に乗ら――」
文句を言い終える前に、唇を塞がれる。何度も啄むように触れ合って、名残惜しそうに彼が離れていく。
「っ、不意打ちは禁止!」
胸板を押して抗議しながら、蒼真の顔を見上げてはっとした。私を見つめるその瞳が、抑えきれない熱に揺れていたから。
「俺が何年待ったか、わかってるだろ。……今夜はキスだけで終わらせてやるつもりはないからな」
もう一度唇が重ねられ、今度はより深くまで求められて、私も広い背中に手を回した。
私たちが互いを想い合う限り、この恋は一生終わらない。


