家ナシ女子は能面社長に拾われる~今日もいい日になりますように!~
 失くしてしまってはなんの意味もない。
 私にとって、一番、大切なものなのに。

 前へと運ぶ足が重い。
 私はどこに行けばいいんだろう。
 目標としていた場所もわからなくなってしまったなんて。
 お母さんも、きっと天国で呆れてるに違いない。

 ものごころついたときから、女手ひとつで私を育ててくれたお母さん。
 いつもにこにこ笑顔で、お父さんのことを聞いても、嫌な顔せず答えてくれた。

「お父さんはね、大事な大事なお仕事があって、どうしてもお母さんと一緒にいられなくなったの」

 お母さんはそう言って微笑んでいた。

「だから、お母さんはその代わりに、あんたと一緒にいたいなと思ったのよ」

 今もお父さんが生きているのかどうか、どこでなにをしている誰なのか、結局教えてはくれなかった。
 だから、私には手紙に書かれた「訪ね先」が、お母さんとどういう関係の人なのかも分からず、お父さんのことも少し分かるんじゃないか、なんて期待して緊張して、昨晩は眠れなくて……
 よりによって新幹線で熟睡してしまったのだ。
 早めに降りる準備をしていれば、バッグを失くすこともなかったかもしれないのに。
 後悔先に立たず、ってほんと、このことだ。

 いろんな気持ちがこぼれないように、口をきゅっと引き結ぶ。
 泣いては駄目よ、とお母さんの声が聞こえた気がした。

 辛いときも、人前では笑ってなさい。そうしたらきっと、いいことが見つかるからーー

「ーーお前、行く場所がないのか」

 とぼとぼと歩く私の背中から、不意に、静かな声が聞こえた。

04 さかのぼること、1ヶ月前?
 振り向くと、さっき別れたはずの吉浦さんが立っていた。
 私は作り笑いを浮かべる。

「はい。でも、仕方ないです。私、こんなにおっちょこちょいだし、身寄りもないので」

 吉浦さんは黙って私を見ていた。
 銀縁フレームの眼鏡が、駅構内の電灯を反射してきらりと光る。
 私は改めて、申し訳なくなった。

「あの、ほんとにすみませんでした。お忙しいのに、お時間取らせて……いや、そもそも泥棒扱いなんかして。すごく、嫌な想いをさせてしまいましたよね。ほんとに……ごめんなさい」

 頭を下げると、涙がこみ上げた。
 なんて情けないんだろう。どうして、私はちゃんとできないんだろう。
 お母さんの遺影すら、失くしてしまうだなんて。

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