家ナシ女子は能面社長に拾われる~今日もいい日になりますように!~
 けど、駅の近くにできたこじゃれた生活用品店や100円ショップのせいで、主要なお客さんだった学生はどんどん店から遠のいていった。
 「子どもや孫にはもう店を閉めろと言われているんだ」と言いながら、それでも、店を続けていた矢先ーー
 七十を過ぎた店長が、怪我をした。

 店の在庫整理のために、上の方のモノを取ろうと、脚立に乗ったときのことだ。
 いつもは私が買って出る仕事なのだけど、そのときはたまたま、私が見つからなかったらしい。
 バランスを崩して転倒した店長は、大腿骨骨折。
 救急車で運ばれて、そのまま入院することになった。

 そして、その慌ただしさの中、私は店長の息子さんに言われたのだ。

「もうこの建物は潰すから、3ヶ月以内に出ていってくれ」

 聞けば、近くの不動産屋さんが、学生用のこじゃれたマンションを建てる計画をしているのだという。
 近くの土地を持つひとたちは立ち退く気になっているのに、店長はひとり、頑として店を閉めようとしなかったそうだ。
 息子さんは厳しい顔をしていたけど、少し、申し訳なさそうにもしてくれた。

 3ヶ月は、たぶんできる限り長めに設定してくれた期間だったのだろう。
 普通なら仕事を見つけて、引っ越しもできるくらいの期間なのかもしれない。
 でも、不器用な私にはちょっと難しかった。
 高校もろくに卒業できなかった女には、住み込みのバイトなんてなかなかなくて、夜の世界に飛び込む勇気もなくて。
 ……とうとう、その日になってしまった。

 私は家にあったものを整理して、必要なものを鞄につめこんだ。
 肩掛けのポシェットには、数少ない貴重品を。
 リュックとボストンバッグには、防寒着や移動に必要そうなもの、お母さんからもらったコスメポーチを入れた。
 そして、キャリーバッグには服のほか、大事な母の遺影と位牌、手紙が入っているーー

 よりによって、どうして、キャリーバッグに入れてしまったんだろう。
 今さら考えてもどうしようもない。そう分かっていても、後悔が頭をよぎる。

 服なんか、どうでもいい。
 お母さんの写真立てが割れたり歪んだら嫌だな、と思ったのだ。だから、キチッとしまえそうなキャリーバッグに入れてしまった。
 手紙も、キャリーの背面ポケットに。
 くたりと形を変えるボストンバッグよりも、よほど間違いないと思ったのだけどーー

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