ずるいです、綾瀬くん!


○朝・白鳥学園高等部 昼休み(初夏)

女子1「あのっ! ずっと好きでした! 私と、付き合ってください!」

 中庭の真ん中で、顔を真っ赤にした女子生徒が頭を下げて手を伸ばす。
 彼女の手の先には、容姿端麗な男子生徒が立っていた。
 中庭を覗く生徒の視線が釘付けになっている。

 両耳に銀色のピアス、少し着崩したネクタイ。
 くしゃっと跳ねたセンター分けの茶髪。すらりと長い手足。柔らかい目元―――綾瀬凪(あやせなぎ)。

綾瀬凪「……ごめんね。気持ちは嬉しいけど、答えられない」

 嬉しそうな、それでいて申し訳なさそうな顔を浮かべて断る凪。

陽葵(あ、また断った。)

 陽葵はその様子を二年一組の教室から眺めていた。
 片手にアップルジュース。机にはメロンパン。

陽葵の親友・柊木茉鈴(ひいらぎまりん)「まーた告られてんじゃん、綾瀬」

 黒髪ツインテールにシュシュ。指先は可愛らしいネイルチップ。
 呆れたような顔で中庭を眺めていた。

茉鈴「もう見飽きたんですけどー。綾瀬に振られて友達に慰められる女子」
陽葵「茉鈴ってストイックだねー」

 リンゴジュースを飲みながら陽葵はそう答える。

モノ『綾瀬凪。』
モノ『成績優秀、容姿端麗、性格も優しいと有名の、いわゆる「学校の王子様」と呼ばれる男。』

陽葵「綾瀬くんを知らない女子いるのかなってくらい、人気だよね」
茉鈴「まあ“王子様”だしね。私はそうは思わないけどっ」

 興味なさそうにスマホを弄る茉鈴を、陽葵はじっと眺めた。

陽葵(「王子様」かぁ……。)

茉鈴「綾瀬、かっこいいけど、私は無理だなー。クールで運動もできてイケメンとか、絶対悪いとこがあるってことじゃん。“天は二物を与えず”ってヤツだよ」
陽葵「んー、そうかなぁ。いい人そうに見えるけど?」

茉鈴「……“ひな”はお人よしすぎるんだよ。いつか詐欺に引っかかるよ」
陽葵「うーん、そんなことないと思うけどな……」

 渋い顔を浮かべてジト目する茉鈴から視線を逸らす陽葵。

陽葵「……そういう、茉鈴はどうなの。彼氏できたんでしょう?」
茉鈴「あ、別れたよ。なんかずっと放置されてて、デートもしてくれないんだもん」
陽葵「相変わらず、罪な女だねぇ」
茉鈴「恋多き女だからさ」

ドヤ顔でそういった茉鈴に、私は苦笑を漏らす。

男子1「あ、おい! 綾瀬、帰って来たぞ!」

 とたんにガヤガヤしだす教室。
 女子も男子も、みんな廊下の方に視線が吸い寄せられていく。

 凪は困ったような顔をしながら、教室のドアを潜り抜けて入って来た。

男子1「あの子さぁ、あのめっちゃ可愛いって噂の、四ノ宮ちゃんだろ? なんで振ったんだよ!」
男子2「俺らの四ノ宮さんを奪いやがって……!」

怒ったように感情をぶつける男の子に、凪は困ったように笑った。

男子3「おい、やめろよ。っつうか、何言っても無駄だろ。凪は恋愛そのものに興味ねぇんだからさ。」
男子1「そりゃそうかもしれねーけどさぁ」

 凪は苦笑いを浮かべながら、淡々と言った。

凪「ちゃんと好きになった子と付き合いたいからさ」

 周囲の男子がぐっと胸を抑える。

男子2「なんだよ……性格まで王子かよ畜生!!」

茉鈴「……ほんと、「王子さま」って感じ」
陽葵「え?」
茉鈴「かっこよくて、なんでもできて、イケメンで、性格もよくて、おまけに恋愛には興味なし、って? 怪しさ満開じゃん。絶対裏がある」

 スマホに視線を向けたまま険しい顔で言う茉鈴。
 陽葵はちらりと横目で凪を追った。
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