ずるいです、綾瀬くん!
○放課後・体育館
靴が体育館の床を滑る音。
飛び上がった凪が、バスケットボールをシュートした。
まるで最初から決まっていたように、ポスッと軽快な音を立ててゴールする。
女子「「きゃーっ!! 綾瀬くーんっ、頑張ってー!!」
シュートを決めた凪が、汗を拭きながら仲間とハイタッチを交わす。
その様子を、ジャージを着た陽葵が眺めていた。
ポニーテールにジャージ。バスケ部マネージャーはみんなこの格好だ。
茉鈴「まったく……。みんな綾瀬を見たいがために体育館に集まって。マネージャーの仕事だって、なんにもしてくれないんだから」
陽葵の隣にいる茉鈴が、グチグチ言いながら、スポーツドリンクが入った箱を移動させてる。
茉鈴「手伝ってくれてありがとね、ひな」
陽葵「ううん。大変だよね、茉鈴」
陽葵はそういいながら、ちらりと茉鈴の方へ目をやった。
陽葵
またコートの方から歓声が沸く。
また凪がゴールを決めたらしかった。
茉鈴「ひなは部活入らないの? 運動できるじゃん」
陽葵「うーん……。これっていうものがないから。手伝うほうが好きだし」
陽葵は点数板を一つめくる。
陽葵「なんで茉鈴は、バスケ部のマネージャー入ったの?」
茉鈴「前の彼氏が、バスケ部だったから。もうやめようかなと思ったんだけど、部員に引き留められて」
陽葵「へえ、そうなんだ」
陽葵(私には縁のない話だなぁ……)
モノ『生まれてこの方十六年、一度も彼氏が出来たことがない私にとって、付き合うっていうのは未知の行為だ。』
女子1「ほんとかっこいいよね、綾瀬くん!」
女子2「ね……。彼氏になってくれないかなぁ」
女子3「あんな彼氏いたら、もう人生勝ったも同然でしょ」
体育館の二階から、そんな声が聞こえてきた。
茉鈴「ひな、そろそろ上がっていいよ。もう試合終わるし」
陽葵「えっ、あ、うん!」
陽葵は凪から視線を外し、慌てて得点板を片付けた。
茉鈴「あっ、更衣室の忘れ物だけ確認してきてくれる!?」
遠くの方から茉鈴の声。
陽葵はふりかえりながら「オッケー!」と言ってパタパタと体育館を後にした。
○更衣室前 廊下