ずるいです、綾瀬くん!
○夕方・帰り道《夏》
凪「橘さんって、バスケ部入ってたっけ?」
陽葵「ううん。私は、茉鈴のお手伝いで……」
凪「あ、そうなんだ。てっきり、最近入ったのかなって。同じクラスだよね」
夕暮れ、凪と陽葵は二人で帰り道を歩いていた。
ちらりと陽葵は凪を見上げる。
陽葵(……私のこと、知ってるんだ)
モノ『はたから見たら恋人に見えることを自覚していない二人組。』
電車に乗って、同じ駅で降りた。
いつもより少し、体が重く感じた。
徐々に自分の家が近づいてきて、そして――……家に着いた。
陽葵「……あの、綾瀬くん」
ちらりと凪を見上げながら、少し早めに声をあげた。
陽葵「私の家、ここだから」
凪「え?」
マンションを見上げ、指をさす。ごく普通の小綺麗なマンション。
すると、凪が驚いたように口を開けた。
凪「俺も、ここだけど」
陽葵「え……?」
凪「マジか……」
凪は少し驚いたように、だけど……ちょっと困ったような顔をしていて。
どうしたの、と言おうとしたけれど、先に凪が歩き出した。
凪「橘さんは、何階?」
陽葵「七階だよ。最上階」
凪「俺と一緒だ……。もしかしてだけど、五号室?」
陽葵「うん、そう」
凪「俺の隣の部屋!」
エレベーターに乗って、凪と一緒に七階におりた。
陽葵(隣の部屋、なんて。気づかなかったけど……そういうこともあるんだなぁ)
凪が一瞬目を見開いた後、パッと笑みを浮かべていたことを思いだした。
陽葵(……優しいな)
凪「じゃあね、橘さん。また明日」
陽葵「あ、うん」
呆然と部屋の前で固まっていると、凪がそう言って、鍵を回して部屋に入っていく。
陽葵はもう数十秒、廊下でじっと固まってしまっていた。