ずるいです、綾瀬くん!


 シンとした廊下を、陽葵は1人で歩いていた。
 もう下校時間を過ぎていることもあり、生徒の人影はない。

陽葵(ここ、薄暗くてちょっと怖いんだよなぁ……)

 陽葵は更衣室の前に立ち、ごくりと息を飲んで鍵を回した。
 ガチャリと開く扉。

陽葵「……え」
凪「……あ」

 陽葵の視界に、上半身裸の凪が映り込んだ。

陽葵「っ!?!?」

 顔を真っ赤にして両手で覆う。

陽葵(なっ、なんで綾瀬くんがここにっ……!!)

陽葵「す、すみませ……っ」
凪「ちょっと待って!」

 慌てて出て行こうと背を向ける。
 すると、凪の慌てた声が聞こえて動きを止めた。

凪「ごめん、驚かせて。もう服着たから」
陽葵「あ……」

 ちらっと視線を戻すと、制服のシャツを着た凪が立っている。
 ネクタイは緩んでいて、部活終わりだからか絶妙な色気が目立っていた。

陽葵「ご、ごめんなさいっ。ちゃんと確認すればよかった……」
凪「俺は全然大丈夫。どうしたの? なんか用事だった?」

 なんとなく凪を直視できず、陽葵は視線を逸らしたまま答える。

陽葵「えっと……忘れ物がないか、確認を……」
凪「ああ、そういうこと。」

 凪は鞄を肩にかけて納得したようにうなずく。

凪「それなら、さっき確認したけどなかったよ」
陽葵「そ、そうですか……!」

 柔らかくて、少し低い声にドキマギしてしまう陽葵。
 凪はそんな陽葵を見て、少しほほ笑んだ。

凪「そんなに緊張しなくてもいいのに。」
陽葵「し、してないです」

 食い気味。
 初めて凪を直視した。思わず目を細める。

陽葵(ま、眩しい……)

陽葵「じゃ、じゃあ私、帰ります。」

 慌てて背を向けて、ドアノブに手をかける。

凪「あ、待って」

 また引き留められた。
 振り返ると、照れくさそうに笑って頬をかく、凪がいて。

凪「よかったら一緒に帰ろう。もう遅いし。最寄り駅、一緒でしょ?」
陽葵「え」
凪「よく見るんだよ、電車の中で。橘さんを」

 陽葵は慌てすぎて何を言われてるか、半分も理解できていない様子だった。
 そもそも、凪と同じ電車に乗っていたことも知らない。

陽葵「……はい」

陽葵がこくりと頷くと、凪はパッと笑みを浮かべた。
< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop