モテ男とデキ女の奥手な恋
「マーシー行っくよー!マイク、まさかイヴに残業させようなんて野暮なことしないよねっ?」
なかったことにして帰ろうと密かに準備していた終業時間。
まさかの財務部長直々のご登場に、俺は言葉をなくした。山崎部長は俺の直属の上司に笑顔で釘を刺す。
そのお誘いをはねのけられるツワモノなどいるわけもなく、周りが唖然としている中、俺は首根っこを引っ張られるように連れていかれた。
忘年会は財務部のおよそ20人と、派遣会社から来ている受付嬢3人、そして何故か俺だった。
うわ。マジでアウェイ。帰りたい。
それにしても、きれいどころの受付嬢3人、よくぞイヴの予定を押さえたものだ。全員フリーとは到底思えないのだが。
ーーと思っていたが、忘年会が始まるなり俺が呼ばれた本当の理由が分かった。
「神崎さんは、飲み会とか良く参加するんですかぁ」
「うん。まぁ……」
なんだこれ、3対1のお見合いか。
おい、他の男性社員、恨めしそうに見てないで絡めよ。男を見せろ!ていうか助けてくれ!
つまりはこいつらを呼ぶための餌か、俺は。
そう部長の思惑を理解しながらも、大人しくその役を演じる気には到底ならなかった。
かなり遠くに席を取っている橘からも、時々白い視線を感じる。
針のむしろってこういうことか。
「受付さんは、みんなお若いなぁ。全員20代やろ」
おっとりと関西訛りで割って入ってくれたのは、男性社員ではなくアラフォーの女性社員、名取葉子さん。
仕事できるのにおっとりした感じが評判で、男女共にファンの多いーー
って状況が悪化しとる!
俺は内心頭を抱えた。こうなったら仕方ない。俺から周りのチキンたちを巻き込むしかない。
「20代っていえば、ユージとヤンもそうだろ」
財務部の若手コンビは、急に振られて戸惑っている。腕の見せ所だ、先輩達も巻き込め!と願いつつそちらに微笑みかける。
「ヤンは自転車やってるんだっけ。足ガッチリしてるもんな。30過ぎると、やっぱ段々筋肉とかも落ちて来るんだよなぁ。俺も何かやろうかな」
「どれどれ」
名取さんが脇腹をつついてくる。しまった、この人かなりの天然だった。
「えっ、マーシー腹筋割れてる?細く見えて筋肉質やなぁ。流行りの細マッチョや」
ぺたぺたと俺の腹部に触りながら目を輝かせる名取さん。
頼む名取さん、俺の意図を察してくれ。俺はただのオッサンの一人だと思われたいんだ。俺の筋肉の話はいいの。分かってくれ!
そんな願いとは裏腹に、名取さんは顔を上げた。
「アーヤ、アーヤ。ちょっと来て」
よりによって橘を呼ぶか。
しかもその手は俺の腹に当てたままだ。
「名取さん、くすぐったいんですけど」
「枯れそうな女子の養分やもん」
名取さんがニコニコ邪気のない笑顔で言う。
「減るもんやなし、少しくらいええやろ」
いや、減るって。俺のHP的な何かがゴリゴリ減っている。
橘は呼ばれて躊躇った後、仕方なくこちらにやって来た。気乗りしないのがありありと分かる。
そりゃそーだ、散々直に触った身体だもんな。
女でも男のくびれは触れたくなるものらしい。脇腹から腰、臀部にかけてのラインを、橘が何度か触れていたのを思い出す。
ーーって、いらんことを思い出すな。平常心、平常心。
橘を抱く前の俺なら、どう対応しただろう。
「なんですか?」
橘が目の前に来たのを確認するなり、名取さんはえいっと声を出して橘の両手を俺に押し付けーー
ようとしたが橘が抵抗して腕を引こうとしたのでバランスが崩れ、身体ごと俺の胸に倒れかかった。
慌ててその身体を受け止める。
名取さんがあらまぁ、と目を丸くした。
「ごめんなぁ」
「橘、大丈夫か?」
肩を支えてやると、橘の顔が見えた。
これ以上ないほどに真っ赤な。
そして目が潤みはじめる。
おーい。ちょっと待て。
そんな顔したら、何かあったのがバレバレだろうが。
橘の動揺っぷりに、俺も動揺する。
しかし、ここで一緒に動揺しては、社内でどんな噂が立つかわからない。踏ん張れ、俺。
ーー橘を抱く前の俺だったら。
「何照れてんだよ。そんなに久々だった?男に触るの」
内心の動揺を押し隠し、にやりと笑うと俺は言った。
橘は真っ赤な顔で言い返す。
「ち、違うわよ!失礼な!」
俺は笑って、グラスに入ったビールを飲み干した。
さて、いつもの通りハイボールでも行くか。
少し自分のベースを取り戻さねば。
思いながら、店員に声をかけた。
なかったことにして帰ろうと密かに準備していた終業時間。
まさかの財務部長直々のご登場に、俺は言葉をなくした。山崎部長は俺の直属の上司に笑顔で釘を刺す。
そのお誘いをはねのけられるツワモノなどいるわけもなく、周りが唖然としている中、俺は首根っこを引っ張られるように連れていかれた。
忘年会は財務部のおよそ20人と、派遣会社から来ている受付嬢3人、そして何故か俺だった。
うわ。マジでアウェイ。帰りたい。
それにしても、きれいどころの受付嬢3人、よくぞイヴの予定を押さえたものだ。全員フリーとは到底思えないのだが。
ーーと思っていたが、忘年会が始まるなり俺が呼ばれた本当の理由が分かった。
「神崎さんは、飲み会とか良く参加するんですかぁ」
「うん。まぁ……」
なんだこれ、3対1のお見合いか。
おい、他の男性社員、恨めしそうに見てないで絡めよ。男を見せろ!ていうか助けてくれ!
つまりはこいつらを呼ぶための餌か、俺は。
そう部長の思惑を理解しながらも、大人しくその役を演じる気には到底ならなかった。
かなり遠くに席を取っている橘からも、時々白い視線を感じる。
針のむしろってこういうことか。
「受付さんは、みんなお若いなぁ。全員20代やろ」
おっとりと関西訛りで割って入ってくれたのは、男性社員ではなくアラフォーの女性社員、名取葉子さん。
仕事できるのにおっとりした感じが評判で、男女共にファンの多いーー
って状況が悪化しとる!
俺は内心頭を抱えた。こうなったら仕方ない。俺から周りのチキンたちを巻き込むしかない。
「20代っていえば、ユージとヤンもそうだろ」
財務部の若手コンビは、急に振られて戸惑っている。腕の見せ所だ、先輩達も巻き込め!と願いつつそちらに微笑みかける。
「ヤンは自転車やってるんだっけ。足ガッチリしてるもんな。30過ぎると、やっぱ段々筋肉とかも落ちて来るんだよなぁ。俺も何かやろうかな」
「どれどれ」
名取さんが脇腹をつついてくる。しまった、この人かなりの天然だった。
「えっ、マーシー腹筋割れてる?細く見えて筋肉質やなぁ。流行りの細マッチョや」
ぺたぺたと俺の腹部に触りながら目を輝かせる名取さん。
頼む名取さん、俺の意図を察してくれ。俺はただのオッサンの一人だと思われたいんだ。俺の筋肉の話はいいの。分かってくれ!
そんな願いとは裏腹に、名取さんは顔を上げた。
「アーヤ、アーヤ。ちょっと来て」
よりによって橘を呼ぶか。
しかもその手は俺の腹に当てたままだ。
「名取さん、くすぐったいんですけど」
「枯れそうな女子の養分やもん」
名取さんがニコニコ邪気のない笑顔で言う。
「減るもんやなし、少しくらいええやろ」
いや、減るって。俺のHP的な何かがゴリゴリ減っている。
橘は呼ばれて躊躇った後、仕方なくこちらにやって来た。気乗りしないのがありありと分かる。
そりゃそーだ、散々直に触った身体だもんな。
女でも男のくびれは触れたくなるものらしい。脇腹から腰、臀部にかけてのラインを、橘が何度か触れていたのを思い出す。
ーーって、いらんことを思い出すな。平常心、平常心。
橘を抱く前の俺なら、どう対応しただろう。
「なんですか?」
橘が目の前に来たのを確認するなり、名取さんはえいっと声を出して橘の両手を俺に押し付けーー
ようとしたが橘が抵抗して腕を引こうとしたのでバランスが崩れ、身体ごと俺の胸に倒れかかった。
慌ててその身体を受け止める。
名取さんがあらまぁ、と目を丸くした。
「ごめんなぁ」
「橘、大丈夫か?」
肩を支えてやると、橘の顔が見えた。
これ以上ないほどに真っ赤な。
そして目が潤みはじめる。
おーい。ちょっと待て。
そんな顔したら、何かあったのがバレバレだろうが。
橘の動揺っぷりに、俺も動揺する。
しかし、ここで一緒に動揺しては、社内でどんな噂が立つかわからない。踏ん張れ、俺。
ーー橘を抱く前の俺だったら。
「何照れてんだよ。そんなに久々だった?男に触るの」
内心の動揺を押し隠し、にやりと笑うと俺は言った。
橘は真っ赤な顔で言い返す。
「ち、違うわよ!失礼な!」
俺は笑って、グラスに入ったビールを飲み干した。
さて、いつもの通りハイボールでも行くか。
少し自分のベースを取り戻さねば。
思いながら、店員に声をかけた。