モテ男とデキ女の奥手な恋
「さて、どうしようか」
隼人が草履を取りに家に走ったのを見届けて、姉が言った。
休日の鎌倉駅周辺で座る場所を探すのはなかなか大変だ。それが三が日となればなおさらである。
少し離れたところにある公民館まで行くか。でも鼻緒が切れていては歩きにくかろう。
そう考えていたのは、俺ばかりではないらしい。
「とりあえず、政人がこの子をお姫様抱っこして」
「姉さん頭沸いてるの?」
「い、いいですそんなの!」
俺と橘がすかさず切り返すと、香子ちゃんがあれ?と周りを見渡した。
「栄太郎くんがいない」
「隼人についていったわよ」
「はあ!?」
俺は慌てて周囲を見渡した。確かにあのちょこまかした影がない。
「白一点、両手に華。良かったわね、政人」
--勘弁してくれよ。
俺はがっくりと脱力した。
橘がくすくす笑う。
「何だよ」
「ううん。神崎ってそんなに表情豊かだったのね。会社にいるときとずいぶん違うから」
「悪いかよ」
「そんなことないよ。人間味があって私はすーー」
俺がギクリとすると同時に、橘が言葉を止めた。
「す、てきだと思うわ」
横目でちらりと姉を見る。
姉は静かに笑っていた。
画になるほど美しいこの笑顔のとき、彼女の腹の底が真っ黒なことを俺は知っている。
神に祈るがごとく、俺は目を閉じた。今年は厄年だったかな。お祓いをしてもらう方がいいかもしれない。
「ずっと立ってるのも大変だもの。政人が抱えていけば一番手っ取り早いけど。女の子一人抱えるくらいの身体づくりはしてるでしょ」
姉がぺしりと俺の肩をたたく。
別にそのために鍛えているわけじゃない。体形維持その他のためだ。
「だから大丈夫よ」
姉がにこやかに言うと、橘はうろたえ、
「いえ、それは知ってますけど」
--おい。
俺の表情が凍り付く。
橘が途端に赤面した。
「あ、いやその、違うんです、忘年会で女子社員が色々言ってたんで!」
取り繕うな!その赤い顔じゃ逆効果だ!
橘も、仕事では完璧ともいえるポーカーフェイスが、なぜかここ最近崩れまくっている。
--原因は分かっているのだが。
「あら、いまだにちやほやされてるのねぇ。政人」
嬉しくねぇ。ちやほやも、姉のその笑顔も。
「でも、ちゃぁんとお詫びはしなくっちゃね。さっきの対応について」
俺はいてもたってもいられず、
「近くのカフェあたってみる。待ってて」
答えも聞かず駆け出した。