モテ男とデキ女の奥手な恋

「何すか、それ」
 金曜の午後。羽田空港から本社に着く頃には、ちょうどお茶の時間になってしまった。クリスはそれならばと、俺の手土産を味わいながら報告を聞く形を整えた。
 上司のマイクとチーフのクリス、そして俺の仕事を継いだジョーに、ミーティング用テーブルを囲んで事情を告げると、俺の話をあらかた聞き終わるなり、真っ先に口を開いたのはジョーだった。短い髪を掻きながら、あけすけに言う。
「もしかして、女の子だったりします?その中学生」
「男だよ。お前と一緒にすんな」
「やめてくださいよ。俺は未成年は射程距離範囲外です」
 そんなこと聞いてねぇし聞きたくもねぇ。
 思いながらボスであるマイクを見ると、彼も苦笑していた。
「そういうことなら、とりあえず数ヶ月は戻って来れなそうだね。ーーまさか、そんな理由で君が戻ってこられなくなるとは思わなかったけど」
「俺もです」
 取引先の孫が、新しい環境に慣れるまで。
 ーーそんな訳の分からない理由で滞在が伸びるとは、誰も想像しないだろう。
「今、ウィークリーマンションなんすよね。どーすんすか」
「マンスリーマンション借りっかなぁ。一年はいないだろうし」
 ジョーに答えながら、都内の家をどうするか考えていた。解約するにも急過ぎるが、頻繁に帰れるとも思えない。とりあえず必ずしも必要ないものは実家に置いておくか。
 ああ、そうだ。隼人にも言っておこう。結婚式は春先の週末だが、仕事の状況次第では日帰りになるかもしれない。
 とりあえずそれぞれの机へと戻ると、隣のジョーがしみじみ言った。
「でも、大変ですね。せっかくいい時期なのに」
「いい時期?」
 1月中旬の何がいい時期だというのか。いぶかしむと、ジョーはへらりと笑った。
「だってそうでしょ。今、一番楽しいときじゃないですか。一週間とか、それくらい?」
「一体何の話をーー」
 ーーちょっと待て。
「ジョー。ちょっとこっち来い」
「痛て、痛いっすよ!何すか、ちょ、マーシーってば!」
 文句を言うジョーの首根っこを問答無用で掴み、引きずりながら廊下へ出た。
「で、お前今何の話をしてたんだ?」
「え?もうほとんど周知の事実ですよ。財務部のエースとうちのホープがいい仲だって。少なくとも、このフロアでは」
 俺は膝から力が抜けそうになるのをかろうじて留めた。
 思わず額を押さえる。落ち着け。落ち着くんだ俺。
「それは……一体、誰から」
「山崎部長です」
 ーーあの狸親父……。
 カタカナ英語の愛想のいい上司の顔を思い浮かべ、半ば殺意に似た感情が沸き上がる。
「山崎部長は誰から」
「えーと、多分」
 ジョーは首を小さく傾げて、頬を赤らめた。
 ーー正直、キモい。
「ヨーコさんだと思います」
 俺はその顔から、先日ジョーの電話での話を思い出した。もしかして、名取さんとのアレコレを思い出しての赤面か?
 たった一週間でこの状態とは。外堀を埋められたも同じだ。
 ーー仕事、しにくくなってねぇかな。
 橘のことを思う。今晩は、宣言通り夕飯を作ってやると約束していた。
 俺は嘆息してジョーを解放すると、首を振りながら自席に戻った。
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