モテ男とデキ女の奥手な恋
「正式に兼務の辞令が出たよ。これで心置きなく九州支部の一員として励んでくれ」
週明け、九州支部に出社すると、上家さんの笑顔に迎えられた。
今までのようにお客様対応ではなくなるので、自然、他の仕事も割り振られることになる。
「といっても、来年のこと急ピッチで進めないといけないからね。予算とデザイン案まとめて、各組合に確認して、2月末のプレゼンまでに方向決めよう」
中心となるプロジェクトメンバーは阿久津、江原さん、そして俺。
「当然、組合との折衝担当はマーシーな。アキはデザイン課とのやりとり担当して。案自体はもういくつか作ってもらってるから」
阿久津はテキパキと指示を出し始めた。なるほど、仕事も捌けるらしい。ーー考えてみれば同期会の幹事を毎回引き受けていた男だ、ちょっとプライドが高いだけで、段取りは悪くないのだろう。
「……てことで、マーシーこれ持って行って来い」
阿久津が笑顔で差し出すファイルを受け取りながら、俺ははいはいと嘆息した。
先週会ったときに、週明けのアポはもう取ってある。正式に九州支部兼務になった挨拶かたがた行って来いとの仰せに従い、ついでに、もう自分で運転しろと車の鍵を渡された。江原さんが外回りの機会を失ってやや拗ねていたが、今までと違い一人前の仕事を任されてやる気を感じているのが分かる。
アポは午後からなので、午前中に各種資料に目を通し、必要に応じて阿久津や上家さんに確認をしておく。
ーーまあ、外に出られるのはありがたいな。
元々部屋の中でこもり切りというのは性に合わない。だったら営業職で入ればよかろうと言われそうだが、営業職に憧れもなかったので総合職を選んだまでだ。
阿久津は出かける俺に、もう一言かけてきた。
「お孫さんの相手もほどほどにな」
俺は分かってるよと応じてひらりと手を振ると、外に出た。