モテ男とデキ女の奥手な恋
試合が終わると、少年の言った通り中学生たちは思い思いにバラけはじめた。ヒカルもチームメイトに声をかけ、更衣室に向かう少女たちと別れてこちらに向かって小走りに近づいてくる。
一方、少年はモップ係に声をかけ、コートの使用権を獲得したらしい。俺に向けて手招きした。
やれやれと思いながら立ち上がり、相変わらずコートのポケットに手をつっこんだまま歩み寄る。何のことはない、2月の体育館の寒さで、手を外に出したくないだけだ。
ヒカルがその様子に、こちらに近づく足を止めたのが見える。
「どっちから?」
「どっちでも」
「じゃ、俺オフェンス」
「どーぞ」
俺は少年とゴールの間に立ち、しぶしぶポケットから手を出し、冷えた手に息をふきかけてこすった。
少年が俺にボールを放って来るのを弾き返すと、やや腰を落として腕を広げた。
ボールを取ると同時に、少年がドリブルで突っ込んで来る。進行方向をふさぐと逆側へ向かう。ついていく俺を、背中と背中を合わせる形で反転し、抜こうとした。
「へぇ」
中坊にしてはなかなかやる。
思わず口元に浮かぶ笑みをそのままに、少年の進路を塞ぐ。舌打ちした少年は俺から離れるように跳びながら、俺が伸ばす手を片手で押し止め、片手でゴールにボールを放った。ほとんど暴投だ。
こんな姿勢じゃ入んねぇだろ。
案の定、ボールはがごんと乱暴な音を立ててリングから跳ね返った。リバウンドを狙う少年を悠々と抑えて俺がボールを手にする。
「まだやる?」
「当然だろ。まだそっちのオフェンスやってない」
少年が俺を睨みつけてきた。身長差があるので自然俺が見下ろす形になる。
「へいへい」
俺は少年にボールを放った。少年が俺に投げ返す。
ーーさて、どう攻めたものか。
両手でボールを持ったまま、やれやれと考える。
ぶつかりあえば当然フィジカルは俺に有利で、何かの弾みにふっとばしでもすれば少年を怪我させかねない。それは大人としてよろしくないが、あっちは本気で取りに来る気だろう。
ーーなら、ぶつからせない方法を取るしかない。
俺は少年によりそうようにゆっくりとドリブルをしはじめた。少年は敵対心をあらわにしながら俺の行く手を塞ぐ。
不意に、ドリブルに込める力を強めた。一歩大きく前へ踏み込む。少年が前へついて来るのを見て、すぐさま後ろにもう一度ドリブルして引く。
慌てて縋り付こうと跳んで来るのを、やや後ろに跳びながらシュートすることでかわした。
ボードに当たったボールは、すぱんとネットの音を立ててゴールから転がり落ちた。
「あー、さっみー」
着地するなりまたポケットに手を突っ込む俺を、少年は悔しそうに睨みつける。
きゃーきゃー聞こえる歓声はもはや気にしないことにする。
「逃げやがって」
「ぶつかったら怪我すんのそっちだぞ」
意気がる少年に、俺は自分の手に息を吐きかけながら答える。ちらりと見やると、少し離れたベンチに座ったままの橘の隣にはヒカルが座っていた。
その姿を見てから、少年に目をやり、ぽんと肩を叩いた。
「欲しいと思う女なら、他人のせいにしてないで本気で向き合えよ、ガキ」
耳元で言って離れると、少年は何も言わずに顔を赤くして俺を睨みつけた。
俺は気にせず背を翻し、橘とヒカルの座るベンチへ向かった。
「あー寒ぃ」
「すごい。川田にあっさり勝っちゃうんだ。あいつ、男バスの中でも一番上手いんだよ」
「あ、そう」
興奮して目を光らせるヒカルに、肩を竦めながら苦笑を返した。なるほど、こういう素直な表情はなかなかお目にかかれないということなのだろう。
「じゃ、まあそろそろ帰るわ。目立ち過ぎたし」
わずかに周りを見渡しても、好奇心に満ちた視線がいくつもこちらに向いているのが分かる。ヒカルは笑った。
「勝手に目立ったんじゃん」
「巻き込まれただけだ」
俺が唇を尖らせて反論すると、橘もくすくすと笑っていた。
帰ろうとして、ふと思い出してヒカルに声をかける。
「今度はバックシュート教えてやるよ。ボードの後ろから入ってレイアップするやつ。ゴール下だと使えるだろ」
「やった。楽しみにしてる」
ヒカルが拳を握って応じた。
体育館を出て歩きながら、橘が、ねぇ楽しげに声をかけてきた。
「川田って子、ヒカルちゃんに気があるのかしら」
ーー恋バナは女子の大好物、か。
江原さんの言葉を思い出しながら嘆息する。
「さあなぁ」
俺は興味なさそうに応じ、
「手に入れる努力もせず、八つ当たりは勘弁してほしいよなぁ」
「よく言うよ。努力しなくても手に入っちゃうくせに」
やや後ろを歩く橘は、冗談めかして言ってきた。
「俺なりには、したよ、努力」
「へぇ、そうなんだ。ーーいつ?」
「お前とのときに決まってるだろ」
あっさり言うと、橘は一瞬きょとんとした後、顔を赤く染めた。
一方、少年はモップ係に声をかけ、コートの使用権を獲得したらしい。俺に向けて手招きした。
やれやれと思いながら立ち上がり、相変わらずコートのポケットに手をつっこんだまま歩み寄る。何のことはない、2月の体育館の寒さで、手を外に出したくないだけだ。
ヒカルがその様子に、こちらに近づく足を止めたのが見える。
「どっちから?」
「どっちでも」
「じゃ、俺オフェンス」
「どーぞ」
俺は少年とゴールの間に立ち、しぶしぶポケットから手を出し、冷えた手に息をふきかけてこすった。
少年が俺にボールを放って来るのを弾き返すと、やや腰を落として腕を広げた。
ボールを取ると同時に、少年がドリブルで突っ込んで来る。進行方向をふさぐと逆側へ向かう。ついていく俺を、背中と背中を合わせる形で反転し、抜こうとした。
「へぇ」
中坊にしてはなかなかやる。
思わず口元に浮かぶ笑みをそのままに、少年の進路を塞ぐ。舌打ちした少年は俺から離れるように跳びながら、俺が伸ばす手を片手で押し止め、片手でゴールにボールを放った。ほとんど暴投だ。
こんな姿勢じゃ入んねぇだろ。
案の定、ボールはがごんと乱暴な音を立ててリングから跳ね返った。リバウンドを狙う少年を悠々と抑えて俺がボールを手にする。
「まだやる?」
「当然だろ。まだそっちのオフェンスやってない」
少年が俺を睨みつけてきた。身長差があるので自然俺が見下ろす形になる。
「へいへい」
俺は少年にボールを放った。少年が俺に投げ返す。
ーーさて、どう攻めたものか。
両手でボールを持ったまま、やれやれと考える。
ぶつかりあえば当然フィジカルは俺に有利で、何かの弾みにふっとばしでもすれば少年を怪我させかねない。それは大人としてよろしくないが、あっちは本気で取りに来る気だろう。
ーーなら、ぶつからせない方法を取るしかない。
俺は少年によりそうようにゆっくりとドリブルをしはじめた。少年は敵対心をあらわにしながら俺の行く手を塞ぐ。
不意に、ドリブルに込める力を強めた。一歩大きく前へ踏み込む。少年が前へついて来るのを見て、すぐさま後ろにもう一度ドリブルして引く。
慌てて縋り付こうと跳んで来るのを、やや後ろに跳びながらシュートすることでかわした。
ボードに当たったボールは、すぱんとネットの音を立ててゴールから転がり落ちた。
「あー、さっみー」
着地するなりまたポケットに手を突っ込む俺を、少年は悔しそうに睨みつける。
きゃーきゃー聞こえる歓声はもはや気にしないことにする。
「逃げやがって」
「ぶつかったら怪我すんのそっちだぞ」
意気がる少年に、俺は自分の手に息を吐きかけながら答える。ちらりと見やると、少し離れたベンチに座ったままの橘の隣にはヒカルが座っていた。
その姿を見てから、少年に目をやり、ぽんと肩を叩いた。
「欲しいと思う女なら、他人のせいにしてないで本気で向き合えよ、ガキ」
耳元で言って離れると、少年は何も言わずに顔を赤くして俺を睨みつけた。
俺は気にせず背を翻し、橘とヒカルの座るベンチへ向かった。
「あー寒ぃ」
「すごい。川田にあっさり勝っちゃうんだ。あいつ、男バスの中でも一番上手いんだよ」
「あ、そう」
興奮して目を光らせるヒカルに、肩を竦めながら苦笑を返した。なるほど、こういう素直な表情はなかなかお目にかかれないということなのだろう。
「じゃ、まあそろそろ帰るわ。目立ち過ぎたし」
わずかに周りを見渡しても、好奇心に満ちた視線がいくつもこちらに向いているのが分かる。ヒカルは笑った。
「勝手に目立ったんじゃん」
「巻き込まれただけだ」
俺が唇を尖らせて反論すると、橘もくすくすと笑っていた。
帰ろうとして、ふと思い出してヒカルに声をかける。
「今度はバックシュート教えてやるよ。ボードの後ろから入ってレイアップするやつ。ゴール下だと使えるだろ」
「やった。楽しみにしてる」
ヒカルが拳を握って応じた。
体育館を出て歩きながら、橘が、ねぇ楽しげに声をかけてきた。
「川田って子、ヒカルちゃんに気があるのかしら」
ーー恋バナは女子の大好物、か。
江原さんの言葉を思い出しながら嘆息する。
「さあなぁ」
俺は興味なさそうに応じ、
「手に入れる努力もせず、八つ当たりは勘弁してほしいよなぁ」
「よく言うよ。努力しなくても手に入っちゃうくせに」
やや後ろを歩く橘は、冗談めかして言ってきた。
「俺なりには、したよ、努力」
「へぇ、そうなんだ。ーーいつ?」
「お前とのときに決まってるだろ」
あっさり言うと、橘は一瞬きょとんとした後、顔を赤く染めた。