モテ男とデキ女の奥手な恋

「私も行きたかったなぁ、本社」
 本社のプレゼンは課長である上家さんと、経緯の分かる阿久津、そして組合と直接やりとりをしている俺の三人で出かけることになっていた。
 プレゼンを再来週に控え、準備を進める中で同じ台詞をぼやく江原さんに、阿久津は呆れた視線を投げた。
「アキ、しつこい」
「へーい」
 阿久津に江原さんも投げやりに答える。俺は苦笑した。
「江原さんも経験できるとよかったけど、予算的にね。残念だな」
「自費でもいいんですけど」
「何でそこまで」
「そりゃ財務部の」
「江原、黙れ」
 俺の制止に、江原さんはニヤニヤしながら形だけ肩を竦めた。すっかりいじられるようになってからは、俺も遠慮がなくなりつつある。
「だってぇ、知らせてあげないと。中学生引っかけちゃってますよぉ、って」
 その言葉に、ふと練習試合を思い出した。
「あのさ。気づいてたんだろ」
「何に?」
「ヒカルが女だって」
 江原さんはぶはっと噴き出した。
「あ、よーやく気づいたんですか?よかったぁ、結構ヒント出してたんですけど、なかなか気づかないから。神崎さんって結構思い込み激しいタイプ?」
「そんなこたぁいいから。分かってたんならはやく言えよ。また変なことに巻き込まれーー」
 た、と言うべきか、そうになった、と言うべきか迷う。が、その前に、不純な期待に満ちた江原さんの目に気づいて黙った。
「え、なになに、何があったんですかぁ?」
 ニヤニヤしながら身体を擦り寄せてくる。マジこいつ悪魔。人の不幸がご馳走みたいな顔しやがって。
「何でもねぇよ」
「えー、本当ですかぁ。隠さなくっていいんですよ、私と神崎さんの仲じゃないですかぁ」
「阿久津、笑ってないで止めろ」
「いや、仲良きことは美しきかな」
「どう見たって俺が一方的に遊ばれてんじゃねぇか」
「遊ばれるネタを次々提供するお前が悪い」
 三人でのミーティングも結局最後はグダグダだ。今日も一日がんばろーと勝手に締めて立ち上がると、江原さんも笑いながら立ち上がった。
「でもとりあえず、どうしようもなくなる前に気づいてよかったですね」
「何だよそのどうしようもない状態って」
「さあ。少しは自分でも考えてください」
 江原さんの言葉に嘆息して、デスクに戻った。

 その日も午後から組合へ話をしに行く予定があり、阿久津と出かけた。話を終えて帰ろうとした俺を、山口会長の妻、花子さんが引き止める。
「あの。土曜日の練習試合、来て下さったとかで」
 俺は相づちを打ちながら隣にいる阿久津の表情を伺ったが、特段表情を変えずにいる。
「ありがとうございました。神崎さんのおかげで友達と話すきっかけになったとかで」
 花子さんは言いにくそうに目を泳がせ、眉尻を下げたまま続けた。
「それで……あの、友達も一緒に、外のゴールを使って練習したいと言い始めたようで」
「ああ、よかったですね」
 俺は心からそう言ったが、隣で阿久津が噴き出した。花子さんは苦笑しながら、
「神崎さんも、ということですよ」
「え?俺?」
 思わずプライベートな自称が口をついて出た。花子さんと阿久津の笑い声を聞きながら、俺は苦笑を浮かべるしかなかった。
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