モテ男とデキ女の奥手な恋

 今から帰ります、と橘から連絡があったのは、いつも通り22時を回った頃だった。お疲れ、とメッセージを返して、またスマホを机上に戻す。
 その机上には、焼酎のボトルと三つのコップ、数種類のつまみが並んでいた。
「もー、神崎さんてば、ほんっと最後の最後までお騒がせ」
 江原さんの顔はすでに赤い。焼酎をロックで飲んでいるから当然といえば当然なのだが。
「アキ、そんな飲めたんだな」
「ったり前ですよー!九州の女なめないでください。ってか、九州なめないでくださいよ!」
 さすがに酔って気が大きくなっている江原さんは、ドン、と机を叩いて阿久津に絡む。
「田舎だと思って馬鹿にしてるでしょう。そりゃ、本社とは違うだろうけど、こっちにはこっちのよさがあるんですよ。阿久津さんはそれを分かってない!」
 阿久津は苦笑している。
「分かってるよ、今は。確かに、最初の頃はそう思ってたかも知れないけどな」
 言いながら、ちびりと水割りを飲んだ。ちなみにボトルで頼んだ焼酎は、江原さんのリクエストで黒糖にしている。
「本社と違って色んな現場に行けて面白いとも思ってる。ーーずいぶん面白い後輩もいるしな」
「面白いってどういうことですかー!私は見世物じゃないですよ!」
 江原さんが食ってかかるのを阿久津は笑って流す。俺は笑って、
「ずいぶん仲良くなったもんだ」
「やめろそれ」
「やめてください」
 阿久津と江原さんがほぼ同時に俺を睨みつけてくるので、また笑う。
「ま、俺もいなくなるし、うまくやってくれよ。二人とも」
「当然だろ。誰に言ってんだ」
「任せてください。私がいれば大丈夫です」
 二人は胸を張って軽口を返してきた。

 飲みすぎてすっかりぐだぐだになった江原さんと阿久津をタクシーに押し込んだ頃には、日付が変わろうとしていた。メッセージを確認しそびれていたことに気づいてスマホを取り出すと、不在着信が2件。いずれも三十分ほど前に、橘からかかっていた。
 三十分前といえば、江原さんと阿久津が潰れはじめて帰宅すべく説得したりタクシーの手配をお願いしたりと世話を焼いていた頃だ。
 俺は軽く舌打ちをし、橘の名前を呼び出してかけ直した。いつもメッセージだけで済ませるので、電話をかけてくるのは珍しい。何かあっただろうかと気になるが、コールを告げる音が鳴るのみで橘は出ない。一度切ってもう一度かけるが同じだった。
 嫌な予感が背中を冷たく駆けていく。動悸は酔いによるものか、それともーー
 俺は大きく深呼吸して首を横に振った。ただ単に最終日だったから電話しただけかもしれない。夜も遅いし、一週間の疲れで眠っているのかもしれない。
 明日は荷造りをし、明後日の昼頃の飛行機で東京へ戻るつもりだ。明日夜が明けてから、改めて連絡してみようーー
 そう思って自分を落ち着かせ、帰宅したが到底眠れそうもない。仕方なく夜通し荷造りをし、翌日を迎えた。
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