【試し読み】転生公女は任期満了に伴い家族の元に帰らせていただきます~役立たずと捨てられましたが、『星詠み』は国を守る希少スキルですよ?~
「ジーナ、回りくどいのは嫌いなので単刀直入に言う」
 その発言に至るまでが充分回りくどかったくせに、よく言う。
 だが、いちいち突っ込むのも面倒くさいし、下手に怒らせてせっかく見た予言が変わると嫌なので、わたしは笑顔で頷いた。
「何でしょう?」
「お前との婚約だが、破棄させてくれ。正直に言おう、お前はちっとも役に立たない。予言者スキルが聞いてあきれる」
 ぴきっと青筋が立ちそうになったのをぐっとこらえ、わたしは小さく首を傾げてみせた。
「と言いますと?」
「わからないか? お前の予言は外れてばかりだ」
 当たり前である。
 わたしが予言したのはどれもこの国にとって問題となりそうなものばかりで、宰相に伝えてその予言が外れるように動いてもらっていた。外しに動いているのだから、それは外れるだろう。
 というか、予言がそのまま的中していたら、チェスターはこの世にはいない。一度、暗殺の危機があったからだ。
「予言とはそういうものです」
「役立たずの言い訳だな」
 カチーンときた。
 だが、我慢だ。我慢。ここで我慢できなければ、この先の幸せな未来はない。
「予言者スキル持ちが聞いてあきれる。お前は期待外れだ。予言者スキルが現れたとお前に飛びついた宰相は無能だったな。まあいい」
 遊んでばかりの王太子のフォローをしながら、同じく遊んでばかりの国王に代わりせっせと政治をしている宰相に向かって何たる暴言を吐くのだろうか。言っておくが、この国の王族はポンコツばかりなので、宰相がいなければ立ち行かないわよ。
「とにかくお前は用なしだ。我が国に新たに予言者スキル持ちが現れたんだ、星を眺めるしか能のない役立たずはとっとと国に帰れ」
 ……よしっ!
 わたしは心の中でガッツポーズをした。
 言質は取った。王太子が「国に帰れ」と言ったのだ。わたしは晴れて自由である!
「つまり殿下は、新しく現れた予言者スキル持ちの女性と婚約なさると、そういうことでよろしいですか?」
「ああそうだ! ここにいるエイダとな!」
 なんと、彼女が新しい予言者スキル持ちらしい。
 ……予言者スキルって、見た予言を自分の頭で考えて未来を予測しないといけないんだけど。
 能天気な顔でケーキを頬張っているエイダが、本当に予言者スキルを持っているのだろうか。
 ……まあいいわ。余計なことを言って婚約継続になったら困るもの。
 チェスターの気が変わる前に。
 そして、宰相が泡を食って対策を講じる前に。
 ……逃げる!
 そうと決まれば善は急げ。
「殿下、国元の父に報告をしなければなりませんので、婚約が解消される旨を書類にしたためてくださいますか? わたくしが今ここでささっと作りますので、殿下はサインしてくださるだけで結構です」
「そうか。早くしろ」
「はい」
 あとで言った言わなかったという事態にならないためにも、証拠は必要である。
 わたしは急いでライティングデスクに向かうと、チェスターと婚約が破棄される旨をささっと書面にまとめた。
 長々といろいろ書けばチェスターにぐずぐず言われるかもしれないので要点だけをまとめる。
「できました。わたしはもうサインしておりますので、どうぞ。同じ文面のものが二枚あります。わたしが持っておくものと、殿下が持っておくものの二通です」
「なるほど、確かに両方が持っておいた方がいいな。お前だけに持たせておいて、あとあと書類を破り捨てて証拠隠滅し、婚約者面をされても困る」
 たとえ死んでもそんな馬鹿なことはしない。
 だが、自分がモテ男だと思っているチェスターは、過去に女性に復縁を迫られたことがあるのだろう。わずかに眉を寄せ「互いに証拠を持っておくのは重要だ」と納得を見せた。
 ……わたしが警戒しているのは、宰相が書類を破り捨てて証拠隠滅を図ることなんだけどね。
 婚約破棄の話をなかったことにされたら困るのはチェスターではない。わたしだ。
 チェスターとそんなやりとりをしている間も、エイダはもぐもぐとお菓子タイムである。本当にこの子は大丈夫だろうか。我関せずという顔をしているが、わたしのあとにチェスターの婚約者になるのは彼女だろうに。
 わたしは確信できる。
 今はエイダが一番のお気に入りのようなので彼女をちやほやしているチェスターだが、生(せい)来(らい)の浮気男であるこいつが、ひとりの女性に節操を貫くはずがない。
 そのうちエイダに飽きて、別の女性と火遊びをはじめるのは目に見えていた。
 わたしへの態度を考えればそんなことはいくらでも想像がつきそうなものだが、エイダは本当にこの男と婚約するつもりだろうか。
 ……いいえ、余計なことを言ってはだめよ。態度に出してもだめ。エイダにもらってもらわないといけないんだから。わたしはもういらないわ、こんな不燃ごみ。いいえ埋め立てごみ。あれ、一応燃えるものだから可燃ごみ? 人間って何ごみなのかしら。わかんないわ。まあ何でもいいけど、いらなくなったからって不法投棄はやめてね、エイダ。
「よし、サインしたぞ! エイダ、これで僕の次の婚約者は君だ」
「きゃっ! 嬉しい! つまり未来の王妃になれるんですね! 王妃様のあの豪華なティアラ、かぶってみたかったんですぅ」
 ……本当に、この子を婚約者にして大丈夫なのかしら?
 予言者スキルなんてなくとも、宰相がきりきり舞いする未来しか見えないのだけど。
「なんだ、そんなことか。その程度なら、母上に頼んで今度借りてきてやろう」
「嬉しい!」
 用はすんだとばかりに、チェスターは自分の分の控え書類を持って立ち上がる。
「殿下ぁ、残ったお菓子、わたしの部屋に運ばせてください」
「食べ残しなんて放置しろ。新しいものを運ばせてやる」
 いや、食べ残しのお菓子を放置されたまま行かれても困るのだけど。あとでメイドに下げてもらおう。
 わたしはこっそりため息をつきたくなったが、書類に視線を落としてにんまりと笑う。
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