【試し読み】転生公女は任期満了に伴い家族の元に帰らせていただきます~役立たずと捨てられましたが、『星詠み』は国を守る希少スキルですよ?~
メイドが慌ただしく出ていくと、チェスターは退屈を紛らわせるようにわたしの部屋の中を見渡した。
「殺風景な部屋だな」
部屋が殺風景に感じるのは、必要最低限のものしか置かれていないからだろう。
チェスターのこれまでの恋人たちのように、わたしは派手に買い物するわけでもない。というか、外出しないのだから買い物もできないし、宰相が手配した商人がここを訪ねてくるのも月に一度だ。
聞いた話によると、チェスターが外で恋人を作るせいで、わたしの予算の一部がそちらに流されているらしい。
それはチェスターがそうさせたという。
いくら王太子でも、婚約者でもない遊び相手の恋人に国の予算は割けない。ならば別から回すしかなく、外出しないわたしの予算は都合がよかったらしい。
それを知った時、無性にこの王太子に対して怒りが湧いたが、かといって、月に一度訪れる商人からしか買い物をしないわたしでは、予算のすべてを使い切ることはできなかったのは確かだ。
……だからって、ムカつくにはムカつくんだけどね。
それならば余った予算の使い道はわたしが決めたかった。チェスターの浮気相手の贅沢にわたしの予算が回されていたのならば、世間から見たらわたしが彼の浮気を容認しているようにも映るではないか。
嫉妬なんて感情は爪の先ほども湧いてこないが、それはそれ、これはこれ。
何より、わたしがチェスターに対して寛容だと思われるのは腹が立つ。
宰相などは、このおかげでわたしは聖母のように懐の深い女性だと思われているなんて適当なことを言っていたけれど、十中八九それは宰相がわたしを言いくるめるために都合よくついた嘘だろう。わたしが聖母ならば、メイドたちがわたしを遠巻きにするはずがない。
予算についてメイドが噂しているのを何度か聞いたが、チェスターは「どうせジーナは星を見上げるしか能がないんだから、ドレスも宝石もいらんだろう」と言ったそうだ。本当かどうかは知らないが、言いそうではある。
宰相は一応、わたしの能力を買ってくれているので、申し訳なさそうな顔で「必要なものがあれば購入してください」と商人を呼んでくれるが、彼がいなければきっとそれすらなかっただろう。
「必要なものは揃っておりますので」
「まあそうだろうな。雨風がしのげて星が見られればお前はそれでよかろう」
んなわけあるか、と怒鳴りたい気持ちをぐっと我慢してわたしは微笑む。
……落ち着いて、この馬鹿に関わるのもこれで終わるんだから、笑って流すのよ。ムカつくけどね!
ぴくぴくとこめかみのあたりが引きつりそうになりながら耐えていると、メイドがお茶とケーキを運んできた。
運ばれてきたお菓子の量に、わたしは唖然とするしかなかった。
まずケーキが三種類。すべてエイダの前に置かれる。他にもプディングにクッキー、マカロンにキャラメルと、キッチンにあったお菓子をかき集めてきましたと言わんばかりの多さだ。
「きゃっ、エイダ嬉しいっ」
なんて笑っているが、エイダはこれを全部食べるつもりだろうか。太るわよ?
対してわたしの前にはティーカップしか置かれない。対応の差がムカつく。
……前からちょっと思っていたけど、こいつ、わたしが霞(かすみ)を食べて生きているとか思ってるんじゃないでしょうね?
この国に到着し、わたしがこの部屋を与えられたその日のことだが、食事が運ばれてこないという事件が起きた。
空腹を抱えて朝まで耐えたわたしの元に、宰相が挨拶をしに来て発覚したのだ。
この馬鹿は、わたしに部屋だけ与えて満足して、世話係を一切つけなかったのだ。
まあ、頭脳が足りてなさそうな男ではあるので、そこまで考えが至らなかったのかもしれないが、それにしてもひどすぎる。
当時のわたしは育ち盛りの十四歳。ほとんど丸一日の絶食がどれだけ堪えたか、この馬鹿はわかっているのだろうか。
宰相が大慌てで謝罪して対応に動いてくれたからことなきを得たが、あの朝、宰相が来なければどうなっていたか。ぞっとする。まあ、宰相が来なくても、我慢の限界に達したわたしが扉を蹴破っていたでしょうけど。
「エイダ、好きなだけ食べるといい」
「はぁーい、殿下、ありがとうございます」
なるほど、現在のチェスターのお気に入りはエイダで間違いなさそうだ。甘やかし方が半端ない。
だが、いくら恋人とはいえ、こんなところに伴ってきたのはどうしてだろう。
……もしかして、あの「星詠み」に関係しているのかしら?
予言とは曖昧なものだ。明確ではない。
わたしは星を詠むことで複数ある未来の可能性を見ることができるけれど、星が語る曖昧な情報から未来を予測するしかないのだ。
ノストラダムスが「恐怖の大王」と曖昧な表現を用いたように、いつどこで誰が何をしてどうなるのか、という具体的なものを知ることはできない。
予言と予知は違うのだ。そして、予知なんていうスキルはこの世に存在しない。
エイダが能天気な顔でケーキを食べはじめると、チェスターはようやく本題に入る気になったようだった。
「殺風景な部屋だな」
部屋が殺風景に感じるのは、必要最低限のものしか置かれていないからだろう。
チェスターのこれまでの恋人たちのように、わたしは派手に買い物するわけでもない。というか、外出しないのだから買い物もできないし、宰相が手配した商人がここを訪ねてくるのも月に一度だ。
聞いた話によると、チェスターが外で恋人を作るせいで、わたしの予算の一部がそちらに流されているらしい。
それはチェスターがそうさせたという。
いくら王太子でも、婚約者でもない遊び相手の恋人に国の予算は割けない。ならば別から回すしかなく、外出しないわたしの予算は都合がよかったらしい。
それを知った時、無性にこの王太子に対して怒りが湧いたが、かといって、月に一度訪れる商人からしか買い物をしないわたしでは、予算のすべてを使い切ることはできなかったのは確かだ。
……だからって、ムカつくにはムカつくんだけどね。
それならば余った予算の使い道はわたしが決めたかった。チェスターの浮気相手の贅沢にわたしの予算が回されていたのならば、世間から見たらわたしが彼の浮気を容認しているようにも映るではないか。
嫉妬なんて感情は爪の先ほども湧いてこないが、それはそれ、これはこれ。
何より、わたしがチェスターに対して寛容だと思われるのは腹が立つ。
宰相などは、このおかげでわたしは聖母のように懐の深い女性だと思われているなんて適当なことを言っていたけれど、十中八九それは宰相がわたしを言いくるめるために都合よくついた嘘だろう。わたしが聖母ならば、メイドたちがわたしを遠巻きにするはずがない。
予算についてメイドが噂しているのを何度か聞いたが、チェスターは「どうせジーナは星を見上げるしか能がないんだから、ドレスも宝石もいらんだろう」と言ったそうだ。本当かどうかは知らないが、言いそうではある。
宰相は一応、わたしの能力を買ってくれているので、申し訳なさそうな顔で「必要なものがあれば購入してください」と商人を呼んでくれるが、彼がいなければきっとそれすらなかっただろう。
「必要なものは揃っておりますので」
「まあそうだろうな。雨風がしのげて星が見られればお前はそれでよかろう」
んなわけあるか、と怒鳴りたい気持ちをぐっと我慢してわたしは微笑む。
……落ち着いて、この馬鹿に関わるのもこれで終わるんだから、笑って流すのよ。ムカつくけどね!
ぴくぴくとこめかみのあたりが引きつりそうになりながら耐えていると、メイドがお茶とケーキを運んできた。
運ばれてきたお菓子の量に、わたしは唖然とするしかなかった。
まずケーキが三種類。すべてエイダの前に置かれる。他にもプディングにクッキー、マカロンにキャラメルと、キッチンにあったお菓子をかき集めてきましたと言わんばかりの多さだ。
「きゃっ、エイダ嬉しいっ」
なんて笑っているが、エイダはこれを全部食べるつもりだろうか。太るわよ?
対してわたしの前にはティーカップしか置かれない。対応の差がムカつく。
……前からちょっと思っていたけど、こいつ、わたしが霞(かすみ)を食べて生きているとか思ってるんじゃないでしょうね?
この国に到着し、わたしがこの部屋を与えられたその日のことだが、食事が運ばれてこないという事件が起きた。
空腹を抱えて朝まで耐えたわたしの元に、宰相が挨拶をしに来て発覚したのだ。
この馬鹿は、わたしに部屋だけ与えて満足して、世話係を一切つけなかったのだ。
まあ、頭脳が足りてなさそうな男ではあるので、そこまで考えが至らなかったのかもしれないが、それにしてもひどすぎる。
当時のわたしは育ち盛りの十四歳。ほとんど丸一日の絶食がどれだけ堪えたか、この馬鹿はわかっているのだろうか。
宰相が大慌てで謝罪して対応に動いてくれたからことなきを得たが、あの朝、宰相が来なければどうなっていたか。ぞっとする。まあ、宰相が来なくても、我慢の限界に達したわたしが扉を蹴破っていたでしょうけど。
「エイダ、好きなだけ食べるといい」
「はぁーい、殿下、ありがとうございます」
なるほど、現在のチェスターのお気に入りはエイダで間違いなさそうだ。甘やかし方が半端ない。
だが、いくら恋人とはいえ、こんなところに伴ってきたのはどうしてだろう。
……もしかして、あの「星詠み」に関係しているのかしら?
予言とは曖昧なものだ。明確ではない。
わたしは星を詠むことで複数ある未来の可能性を見ることができるけれど、星が語る曖昧な情報から未来を予測するしかないのだ。
ノストラダムスが「恐怖の大王」と曖昧な表現を用いたように、いつどこで誰が何をしてどうなるのか、という具体的なものを知ることはできない。
予言と予知は違うのだ。そして、予知なんていうスキルはこの世に存在しない。
エイダが能天気な顔でケーキを食べはじめると、チェスターはようやく本題に入る気になったようだった。