おてんば令嬢と心を喪った騎士
第1話 おてんば令嬢と心を喪った騎士
「この身は貴女の剣です。どうか私を道具として使い潰してください。――ご命令を」
伯爵令嬢――ノエル・エーデルワイスの眼前に、そんな言葉を吐いて跪く騎士がいる。
ノエルはパチパチとまばたきをしながら、その蒼い瞳で、暗黒騎士――レオン・ローズブレイドを見つめていた。
ノエルは貴族令嬢として生まれ育ったが、ある『秘密』を持っている。
それゆえ、家から出されることなく、深窓の令嬢として育った。
「お父様、わたくし退屈だわ」
ノエルは頬をぷうっと膨らませる。
「箱入り娘」という名の、実質的な幽閉。
他人から見れば悲劇的かもしれないが、ノエルにとってはそこまで悲惨ではない。
貴族だから生活には困窮していないし、広い屋敷内であれば自由に歩き回れた。
問題は、あまりにも娯楽がないことである。
そんなノエルのために、父親が連れてきたのが、騎士のレオンだった。
「ノエルお嬢様、よろしくお願いいたします」
レオンが深々と頭を垂れ、銀髪がきらりと光を反射する。
王国で「暗黒騎士」の名の由来になっている漆黒の鎧は、ノエルの姿を映すほど磨き込まれていた。
鎧を覗き込めば、ノエルの金髪と、青いドレスが見えることだろう。
「よろしくね、レオン! お友だちがほしいと思ってたから嬉しいわ」
ノエルが何気なく放った言葉に、レオンが顔を上げてキョトンとする。
ルビーのような紅の瞳が、ノエルを映していた。
しかし、レオンの表情には何の感情も乗っていない。
「……お友だち、ですか。道具が、友人になれるでしょうか」
「え?」
今度はノエルがあっけにとられる番だった。
彼女はレオンのことについて、「護衛のために雇った」と父から伝えられている。
たしかに、従者である騎士を友だち扱いするのは難しいかもしれない。
しかし、自分を「道具」と定義する騎士に、ノエルは少なからず驚く。
レオンはさらに言葉を重ねた。
「私は貴女の剣です。命令に従うのみの道具です。私と友人になるのは、およしになったほうがよろしいかと」
「……変わったご趣味なのね」
「道具に趣味はありません」
そこまで自認が徹底していると、もはや少し面白いまである。
そんな2人のやり取りを見て、伯爵も使用人たちも、反応に困ったことだろう。
レオンは何ひとつ失礼なことをしていないし、むしろ丁重な態度ですらある。
ノエルは少し考えたあと、手を差し出してきた。
「じゃあ、最初の命令。私と握手して」
「かしこまりました」
レオンはノエルの差し伸べた手を、そっと握る。
レオンの大きな手に包まれると、温かい。
――こんなに温かい人が、どうして自分を道具だと思ってるんだろう。
そう思いながら、ノエルはレオンに笑いかけた。
レオンは無表情を崩すことはない。
伯爵令嬢と、暗黒騎士。
2人の物語は、こうして始まる。
伯爵令嬢――ノエル・エーデルワイスの眼前に、そんな言葉を吐いて跪く騎士がいる。
ノエルはパチパチとまばたきをしながら、その蒼い瞳で、暗黒騎士――レオン・ローズブレイドを見つめていた。
ノエルは貴族令嬢として生まれ育ったが、ある『秘密』を持っている。
それゆえ、家から出されることなく、深窓の令嬢として育った。
「お父様、わたくし退屈だわ」
ノエルは頬をぷうっと膨らませる。
「箱入り娘」という名の、実質的な幽閉。
他人から見れば悲劇的かもしれないが、ノエルにとってはそこまで悲惨ではない。
貴族だから生活には困窮していないし、広い屋敷内であれば自由に歩き回れた。
問題は、あまりにも娯楽がないことである。
そんなノエルのために、父親が連れてきたのが、騎士のレオンだった。
「ノエルお嬢様、よろしくお願いいたします」
レオンが深々と頭を垂れ、銀髪がきらりと光を反射する。
王国で「暗黒騎士」の名の由来になっている漆黒の鎧は、ノエルの姿を映すほど磨き込まれていた。
鎧を覗き込めば、ノエルの金髪と、青いドレスが見えることだろう。
「よろしくね、レオン! お友だちがほしいと思ってたから嬉しいわ」
ノエルが何気なく放った言葉に、レオンが顔を上げてキョトンとする。
ルビーのような紅の瞳が、ノエルを映していた。
しかし、レオンの表情には何の感情も乗っていない。
「……お友だち、ですか。道具が、友人になれるでしょうか」
「え?」
今度はノエルがあっけにとられる番だった。
彼女はレオンのことについて、「護衛のために雇った」と父から伝えられている。
たしかに、従者である騎士を友だち扱いするのは難しいかもしれない。
しかし、自分を「道具」と定義する騎士に、ノエルは少なからず驚く。
レオンはさらに言葉を重ねた。
「私は貴女の剣です。命令に従うのみの道具です。私と友人になるのは、およしになったほうがよろしいかと」
「……変わったご趣味なのね」
「道具に趣味はありません」
そこまで自認が徹底していると、もはや少し面白いまである。
そんな2人のやり取りを見て、伯爵も使用人たちも、反応に困ったことだろう。
レオンは何ひとつ失礼なことをしていないし、むしろ丁重な態度ですらある。
ノエルは少し考えたあと、手を差し出してきた。
「じゃあ、最初の命令。私と握手して」
「かしこまりました」
レオンはノエルの差し伸べた手を、そっと握る。
レオンの大きな手に包まれると、温かい。
――こんなに温かい人が、どうして自分を道具だと思ってるんだろう。
そう思いながら、ノエルはレオンに笑いかけた。
レオンは無表情を崩すことはない。
伯爵令嬢と、暗黒騎士。
2人の物語は、こうして始まる。
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