おてんば令嬢と心を喪った騎士
第2話 ノエル・エーデルワイスはおてんば令嬢である
ノエル・エーデルワイスは、おてんば令嬢である。
幼い頃から、屋敷で幽閉生活を送っていても、広い敷地を駆け回っていた。
父親も使用人も手を焼くじゃじゃ馬であるが、それでも彼らから愛されている。
「レオン! 一緒に遊んで!」
「ご命令とあらば」
ノエルのお願いに、恭しく従うレオン。
18歳のわりに子どものように無邪気な命令である。
24歳の騎士は、無表情のまま目だけを細めた。
「木登りするのを手伝って」
「……それは危ないのでは」
屋敷の庭に出て、ノエルから下された命令がそれだった。
レオンの自認は道具であるが、主人が危険なことをするのであれば、止めたほうが良かろう。
意見を言うのは恐れ多いが、一応進言はする。
「命令なら聞くんでしょう?」
「……承知いたしました」
レオンはあっさり折れた。
命令と言われると弱い。
彼は、「念のためにお伺いしたいのですが、木に登りたい理由は何でしょうか?」と尋ねる。
「あの高いところに降りられない猫ちゃんがいるの」
「……それは、お嬢様が登るよりも私が」
「鎧を着てて、木を登れるの?」
「道具にできないことはございません」
レオンは、道具を自称するわりには、それなりのプライドがあった。
主人の命令を遂行するための能力はある。
ノエルは「すごいわね」と、純粋に称賛した。
「でも今回は私が登るわね。高いところから街を見たいから」
「私に選択肢がございませんね」
「命令に従うってそういうことよ」
「……そう、でございますね」
レオンが自分でそうあろうとした結果である。
語るに落ちる。
ノエルは、ドレスのスカートをたくし上げ、服が汚れるのも構わず、木によじ登り始めた。
「もう大丈夫よ、猫ちゃん。さあ、わたくしのほうにいらっしゃい」
木から降りられなくなった子猫に語りかける。
猫に向かって、手を伸ばすノエル。
子猫は彼女を一瞥し――。
――普通に木の枝から飛び降りた。
地面に着地すると、そのまま歩いて去っていく。
「……」
「……」
ノエルとレオンの間に、静寂が降りた。
猫は、別に木から降りられないわけではなかった。
そして、別の問題が発生することになる。
「レオン、命令よ。助けて、木から降りられない」
「お嬢様、私が受け止めますので、そのまま落ちてください」
ノエルは木の枝に抱きつく格好でしがみつき、プルプルと震えていた。
彼女のいる位置から地面までは1メートルほどある。
地面の土は柔らかく、落ちても大怪我をするほどではないが、下を見下ろすと動けなくなる。
レオンがノエルを受け止めようと、腕を広げた。
「レオン、あなたを信じていいのね?」
「もちろんでございます。道具の誇りにかけて、無事に受け止めてみせましょう」
ノエルは、恐怖に耐えながら、レオンに託すことにする。
フッと力を抜いて、木の枝から腕を放し、レオンの腕の中に落ちていった。
レオンがノエルの落ちる位置に、腕を伸ばす――。
ぽすっと、レオンの腕の中にノエルが収まった。
レオンは、すぐにノエルを地面に下ろして立たせる。
「痛むところはございませんか」
「大丈夫。助かったわ」
レオンがノエルのドレスをチェックする。
無表情の眉間に、少しシワが寄った。
「木の皮が付着しているのを確認。ところどころ、木に引っかかってドレスもほつれております」
「木登りをしたらまあ、仕方ないわね」
「小間使に指示して、服を直してもらいましょう」
「そうね」
レオンはノエルに屋敷内に戻るように促す。
ふと、疑問に思ったことを口にした。
「そういえば、お嬢様」
「どうしたの?」
「高いところから街を見たいとおっしゃっていましたが、それどころではありませんでしたね」
ノエルが足を止める。
「そうだったわ。私、猫ちゃんも助けたかったけど、街を見たかったのよ。もう一度登りましょう」
「お嬢様、危のうございます」
「レオンが受け止めてくれるから安心ね」
「お嬢様」
レオンがノエルを説得するのに苦心したのは言うまでもない。
幼い頃から、屋敷で幽閉生活を送っていても、広い敷地を駆け回っていた。
父親も使用人も手を焼くじゃじゃ馬であるが、それでも彼らから愛されている。
「レオン! 一緒に遊んで!」
「ご命令とあらば」
ノエルのお願いに、恭しく従うレオン。
18歳のわりに子どものように無邪気な命令である。
24歳の騎士は、無表情のまま目だけを細めた。
「木登りするのを手伝って」
「……それは危ないのでは」
屋敷の庭に出て、ノエルから下された命令がそれだった。
レオンの自認は道具であるが、主人が危険なことをするのであれば、止めたほうが良かろう。
意見を言うのは恐れ多いが、一応進言はする。
「命令なら聞くんでしょう?」
「……承知いたしました」
レオンはあっさり折れた。
命令と言われると弱い。
彼は、「念のためにお伺いしたいのですが、木に登りたい理由は何でしょうか?」と尋ねる。
「あの高いところに降りられない猫ちゃんがいるの」
「……それは、お嬢様が登るよりも私が」
「鎧を着てて、木を登れるの?」
「道具にできないことはございません」
レオンは、道具を自称するわりには、それなりのプライドがあった。
主人の命令を遂行するための能力はある。
ノエルは「すごいわね」と、純粋に称賛した。
「でも今回は私が登るわね。高いところから街を見たいから」
「私に選択肢がございませんね」
「命令に従うってそういうことよ」
「……そう、でございますね」
レオンが自分でそうあろうとした結果である。
語るに落ちる。
ノエルは、ドレスのスカートをたくし上げ、服が汚れるのも構わず、木によじ登り始めた。
「もう大丈夫よ、猫ちゃん。さあ、わたくしのほうにいらっしゃい」
木から降りられなくなった子猫に語りかける。
猫に向かって、手を伸ばすノエル。
子猫は彼女を一瞥し――。
――普通に木の枝から飛び降りた。
地面に着地すると、そのまま歩いて去っていく。
「……」
「……」
ノエルとレオンの間に、静寂が降りた。
猫は、別に木から降りられないわけではなかった。
そして、別の問題が発生することになる。
「レオン、命令よ。助けて、木から降りられない」
「お嬢様、私が受け止めますので、そのまま落ちてください」
ノエルは木の枝に抱きつく格好でしがみつき、プルプルと震えていた。
彼女のいる位置から地面までは1メートルほどある。
地面の土は柔らかく、落ちても大怪我をするほどではないが、下を見下ろすと動けなくなる。
レオンがノエルを受け止めようと、腕を広げた。
「レオン、あなたを信じていいのね?」
「もちろんでございます。道具の誇りにかけて、無事に受け止めてみせましょう」
ノエルは、恐怖に耐えながら、レオンに託すことにする。
フッと力を抜いて、木の枝から腕を放し、レオンの腕の中に落ちていった。
レオンがノエルの落ちる位置に、腕を伸ばす――。
ぽすっと、レオンの腕の中にノエルが収まった。
レオンは、すぐにノエルを地面に下ろして立たせる。
「痛むところはございませんか」
「大丈夫。助かったわ」
レオンがノエルのドレスをチェックする。
無表情の眉間に、少しシワが寄った。
「木の皮が付着しているのを確認。ところどころ、木に引っかかってドレスもほつれております」
「木登りをしたらまあ、仕方ないわね」
「小間使に指示して、服を直してもらいましょう」
「そうね」
レオンはノエルに屋敷内に戻るように促す。
ふと、疑問に思ったことを口にした。
「そういえば、お嬢様」
「どうしたの?」
「高いところから街を見たいとおっしゃっていましたが、それどころではありませんでしたね」
ノエルが足を止める。
「そうだったわ。私、猫ちゃんも助けたかったけど、街を見たかったのよ。もう一度登りましょう」
「お嬢様、危のうございます」
「レオンが受け止めてくれるから安心ね」
「お嬢様」
レオンがノエルを説得するのに苦心したのは言うまでもない。