おてんば令嬢と心を喪った騎士
第3話 ノエル・エーデルワイスの秘密
「レオン! こっちこっち~!」
「お嬢様、屋敷の中は走ってはなりません」
ノエルとレオンは相変わらず一緒に遊んで過ごしている。
貴族令嬢というものは大抵暇を持て余しているもの。
ノエルに至っては外出を禁じられているので、その退屈は並みの令嬢の比ではない。
ゆえに、レオンを巻き込んで屋敷中を遊び場にしている。
屋敷の中や庭で鬼ごっこ。
ときにはおままごと。
厨房に乗り込んで、料理人と一緒にお菓子作り。
それにレオンが一緒についてくる。
「ねえ、こんなにたくさん遊んだら、わたくしたち、もう友達じゃないかしら!」
「いえ、私はただの遊び道具です」
「あなたって、けっこう強情よね!」
レオンの無表情にも、ノエルは機嫌を損ねることなく、愉快そうに笑っていた。
レオンは、そんなノエルに対し、眩しいものでも見るように、目を細める。
彼は、常々抱いている疑問を口にした。
「……お嬢様は、街にはお出かけにならないのですか」
ノエルが、レオンの言葉に、ピタッと動きを止める。
彼女はレオンを振り返って、じっと見つめた。
レオンは賑やかな令嬢が急に静かになり、不審に思いながら言葉を続ける。
「お嬢様の退屈しないものが街にはいくらでもありそうですが」
「この屋敷からは出ることを許されていないから」
「それが不可解です。お嬢様は別に病弱というわけでもないのでしょう」
レオンの当然の疑問に、ノエルは困ったように笑うのみだった。
レオンは、なにか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がする。
ノエルは少しうつむいて、しかし黙っていた。
「必要とあらば、この剣も護衛として共に――」
「レオンがいてもダメなの。わたくしは屋敷から一生出られない」
一生、出られない。
そんな重みのある言葉が飛び出して、レオンは言葉に窮する。
無表情で押し黙った。
「……私では、お嬢様に不足ですか」
「そういう意味じゃないわよ」
ノエルは、やはり、困ったような笑みのまま。
「ただ……」そう言いかけて、言葉を切る。
彼女の視線は、庭に釘付けになっていた。
庭先に、なにかがピクピクと痙攣しながら落ちている。
「あれ、何かしら」
「お嬢様、私の後ろに」
不審物を見て、レオンは警戒の色を見せた。
ノエルを背後に隠しながら、ゆっくりと近寄る。
その不審物の正体が判明した時、ノエルがレオンの後ろから出てきた。
「……小鳥?」
「翼をやられていますね。猫でしょうか」
「治療して、また野に放してあげましょう」
ノエルが怪我をした小鳥を、両手で拾い上げる。
獣にやられたような傷から流れ出る血が、ノエルの手に付着した。
レオンは、無性にそれが嫌な気分になる。
「いえ、その傷ではもう助からないかと」
「大丈夫」
ノエルは短く、そう答えた。
彼女が小鳥を凝視すると――。
指先から緑色の魔力が滲んでくる。
レオンは目を見開いた。
魔力は小鳥を包み、傷を塞いでいく。
傷を癒された小鳥は、むくりと起き上がると、令嬢の手から飛び立っていった。
ノエルは、小鳥が大空に羽ばたいて、見えなくなるまで見送る。
「――。お嬢様、それは」
「わたくしが箱入りになった理由よ」
令嬢は、己の手を見つめた。
スッと、緑色の魔力が薄くなって消えていく。
魔力の消えた手を、軽く握る。
「――わたくしは、『魔法』が使えるの」
「お嬢様、屋敷の中は走ってはなりません」
ノエルとレオンは相変わらず一緒に遊んで過ごしている。
貴族令嬢というものは大抵暇を持て余しているもの。
ノエルに至っては外出を禁じられているので、その退屈は並みの令嬢の比ではない。
ゆえに、レオンを巻き込んで屋敷中を遊び場にしている。
屋敷の中や庭で鬼ごっこ。
ときにはおままごと。
厨房に乗り込んで、料理人と一緒にお菓子作り。
それにレオンが一緒についてくる。
「ねえ、こんなにたくさん遊んだら、わたくしたち、もう友達じゃないかしら!」
「いえ、私はただの遊び道具です」
「あなたって、けっこう強情よね!」
レオンの無表情にも、ノエルは機嫌を損ねることなく、愉快そうに笑っていた。
レオンは、そんなノエルに対し、眩しいものでも見るように、目を細める。
彼は、常々抱いている疑問を口にした。
「……お嬢様は、街にはお出かけにならないのですか」
ノエルが、レオンの言葉に、ピタッと動きを止める。
彼女はレオンを振り返って、じっと見つめた。
レオンは賑やかな令嬢が急に静かになり、不審に思いながら言葉を続ける。
「お嬢様の退屈しないものが街にはいくらでもありそうですが」
「この屋敷からは出ることを許されていないから」
「それが不可解です。お嬢様は別に病弱というわけでもないのでしょう」
レオンの当然の疑問に、ノエルは困ったように笑うのみだった。
レオンは、なにか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がする。
ノエルは少しうつむいて、しかし黙っていた。
「必要とあらば、この剣も護衛として共に――」
「レオンがいてもダメなの。わたくしは屋敷から一生出られない」
一生、出られない。
そんな重みのある言葉が飛び出して、レオンは言葉に窮する。
無表情で押し黙った。
「……私では、お嬢様に不足ですか」
「そういう意味じゃないわよ」
ノエルは、やはり、困ったような笑みのまま。
「ただ……」そう言いかけて、言葉を切る。
彼女の視線は、庭に釘付けになっていた。
庭先に、なにかがピクピクと痙攣しながら落ちている。
「あれ、何かしら」
「お嬢様、私の後ろに」
不審物を見て、レオンは警戒の色を見せた。
ノエルを背後に隠しながら、ゆっくりと近寄る。
その不審物の正体が判明した時、ノエルがレオンの後ろから出てきた。
「……小鳥?」
「翼をやられていますね。猫でしょうか」
「治療して、また野に放してあげましょう」
ノエルが怪我をした小鳥を、両手で拾い上げる。
獣にやられたような傷から流れ出る血が、ノエルの手に付着した。
レオンは、無性にそれが嫌な気分になる。
「いえ、その傷ではもう助からないかと」
「大丈夫」
ノエルは短く、そう答えた。
彼女が小鳥を凝視すると――。
指先から緑色の魔力が滲んでくる。
レオンは目を見開いた。
魔力は小鳥を包み、傷を塞いでいく。
傷を癒された小鳥は、むくりと起き上がると、令嬢の手から飛び立っていった。
ノエルは、小鳥が大空に羽ばたいて、見えなくなるまで見送る。
「――。お嬢様、それは」
「わたくしが箱入りになった理由よ」
令嬢は、己の手を見つめた。
スッと、緑色の魔力が薄くなって消えていく。
魔力の消えた手を、軽く握る。
「――わたくしは、『魔法』が使えるの」


