冷静な天才外科医の弱点は、私でした
1.会議は踊り、進み続ける

怖い人だと思っていた




 私はその日、病院で一番敵に回したくない男に真正面から反論した。


「その予算案では、心臓病治療センター設立は無理です」


 言った瞬間、会議室の空気が凍りついた。

 しまった、と思ったときにはもう遅い。

 目の前に座る男性の視線が、ゆっくりと私へ向けられた。

 鋭い。

 切れ長の黒い瞳に見据えられただけで、指先から全身が冷えていく感覚。

 表情はほとんど変わっていないのに、視線だけでこちらを射抜くような圧がある。

 ――宗形圭。

 三十二歳の心臓血管外科医。

 国内でもトップクラスの技術を持つ、若き天才。

 難易度の高い手術をいくつも成功させ、海外から患者を紹介されることもある。

 海外での研鑽経験があり、研究者としても実績を残している。

 頭脳明晰で腕も一流。

 そのうえ、一八五センチほどの長身で、黒に近い髪も、整った顔立ちも、どこから見ても隙がない。


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