冷静な天才外科医の弱点は、私でした



 ほんの一瞬、彼の口元が緩んだ。


 (あ、かわいい……)


 不意打ちだった。

 こんな顔もするのか、と息が止まりそうになる。


「なら、受け取っておきます」


 私は思わず笑った。

 初めて、この人の笑顔を見た。

 ほんのわずかな変化だったけれど――それだけで、胸の奥がくすぐったくなるような感覚があった。


「あのー、宗形先生、仲山さん」


 薬剤師の今井さんが手を挙げた。


「会議、もう終わりですか?」


 呆れたような半目が、眼鏡の奥から覗いている。


「え!……ああ、そうですね。だいぶ過ぎてしまいましたし、これで終わりにしましょう」

「キリもいいですし、そうしましょう」


 千春が同調し、会議室は安穏とした空気に包まれる。

 このときの私は、まだ知らなかった。

 この完璧な男が、これから私の前でだけ、どんどん余裕をなくしていくことを。


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