冷静な天才外科医の弱点は、私でした
そう言いながら、彼は私より先に会議室の扉へ向かい扉を開ける。
「ありがとうございます」
先に出ようとした私が彼の横を通る瞬間、思ったより近くに彼の肩があった。
長身だから、視線が自然と上向く。
一瞬だけ目が合う。
「……お疲れさまでした」
「お疲れさまです」
低い声が返ってきて、淡々とした調子に、安心したような肩透かしを食らったような奇妙な気持ちになった。
二人で廊下へ出て、並んで歩くわけでもなく、ただ同じ方向へ向かう。
それだけなのに、さっきまでの会議とは違う緊張が胸の奥に残っていた。
私はまだ知らない。
この人と二人きりで話すことが、これから少しずつ増えていくことを。
そしてそのたびに、この人の「完璧」ではない部分を知っていくことになるなんて。
この日はただ、
ーー思っていたより、話しやすい人だったな。
そう思っただけだった。