冷静な天才外科医の弱点は、私でした



 私が目を瞬かせると、高瀬先生は人懐こい笑顔を見せた。


「そんなこと、よく覚えてましたね」

「覚えてるよ」


 高瀬先生がゆっくりと近づく。


「俺、仲山さんには新人の頃から世話になってるから」

「私がですか?」

「そう」


 高瀬先生が懐かしそうに笑う。


「俺がこの病院に来たばっかりの頃、覚えてる?」

「覚えてます」


 高瀬先生は以前、別の病院からここへ異動してきた。

 当時は新しい環境に慣れず、経営企画部への書類提出も何度か間違えていた。


「最初の予算申請、三回差し戻されましたよね」

「いや四回だったよ」

「四回かぁ……」

「そう。しかも四回目は、仲山さんに『ここで一緒に書きましょう』って言われた」

「……そんなことありました?」

「あったよ」


 高瀬先生が窓に顔を向けた。横顔がオレンジ色に染まって、私もつられるように窓の外へと視線を滑らせる。


< 47 / 79 >

この作品をシェア

pagetop