やさしい風の吹く街で~謎の美青年、海に落ちる~
(じゃあコンビニでの買い物が済んだら寄って)
「ホントにすみません。お願いします」
お屋敷を出ると、マスターに電話をして大まかなことを話した。 清風さんが勝手に退院したこと、意識を失ったのは睡眠薬のせいらしいこと、そして何も食べていなくて倒れたこと。
今から何か買いに行くと言うと、マスターは 「まずは胃にやさしいものがいいだろうから、おかゆ作ってあげるよ」 と言ってくれた。
清風さんが現金を差し出して「それを持って帰ってもらえませんか」とか、「助けてなんて頼んでない」とか言ったことは話していない。 でももし話しても、マスターはきっと同じことを言ったと思う。
コンビニで飲み物やバナナ、エネルギーゼリーなどを買い込み、外に出るとタクシーを止めた。
Café leafまで歩けば15分くらい。普段なら歩く距離だけれど、床に転がったままのあの人を思うと気が急く。
「あら? あんた」
タクシーに乗り込んだ途端、ルームミラー越しに運転手さんと目が合った。 さっきの運転手さんだった。
「雅楽川さんとこの別荘、すぐわかったじゃろ?」
「あ、はい」
「立派じゃったじゃろ?」
「はい。あの、土堂のcafé leafまでお願いします」
着くと、タクシーを待たせて店に入った。 けっこうお客が入っている。
「あ、咲和ちゃん。これこれ」
奥さんがテイクアウト用の紙袋に入れたタッパーを渡してくれた。
「すみません。忙しいのに」
「いいっていいって。早く行って食べさせてあげて」
「咲和ちゃん、これも持って行って」
マスターが奥から顔を出し、小さなタッパーを置いた。
「フルーツ切って入れといたから」
「ありがとうございます」
タクシーに戻り、また雅楽川の別荘へ向かった。
清風さんは相変わらず床に転がっていた。
「生きてます? ずっとそうしてたんですか?」
じろっとこっちを見る。 ……変な人。
「わたしのバイト先のマスターがおかゆ作ってくれたんです。 ずっと食べてないなら胃にやさしいものがいいからって。 あと、適当にいろいろ買ってきました。起きれます?」
しゃがんで、清風さんが起きるのを手伝う。 上半身を起こした清風さんと至近距離で目が合い、咄嗟に目をそらした。 いくらおかしな人でも、こんなにきれいな顔が近くにあるとドギマギする。
「とにかく、ソファに座ってください。ほら、自分で立って。わたし用意してきますから」
キッチンへ行き、食器棚から器を取り出す。 タッパーを触るとまだ温かい。 寒いわけじゃないし、このくらいならいいかと、そのまま器に移した。
スプーンを添えて持っていくと、清風さんはソファに座って水を飲んでいた。
「動けるじゃないですか」
「動けないとは言ってない」
ペットボトルのキャップを閉めてテーブルに置く。 その仕草はやっぱり疲れているように見えた。
「はい、これ。café leafのマスター特製卵がゆ。美味しいですよ。食べたことないけど」
清風さんがじろっと視線をよこす。
「だってマスター料理上手だし」
清風さんはスプーンを取り、おかゆをすくって口に運んだ。
「どうですか? 美味しいでしょ?」
「ぬるい」
「…………」
しばらく黙っておかゆを見つめていたけれど、またスプーンを動かし始めた。 ほっとして、なんだかうれしくなった。
「フルーツも持たせてくれたんです。持ってきますね」
結局、清風さんはおかゆを全部平らげた。
「何かあったら連絡してください。これ、わたしの連絡先です」
わたしが帰ったら捨てるのかもしれないけれど、清風さんは差し出したメモを受け取った。
「それじゃ」
応接間を出ようとしたとき、清風さんは何か言いたげだった。 けれど結局、何も言わなかった。
今日はもうアルバイトはいいと言われていたので、そのまま家へ歩いて帰る。 なんか後頭部が痛いと思ったら、さっき押し倒されたときに打ったせいだ。
スマホが鳴った。 取り出すと葵さんからだった。
「もしもし?」
(申し訳ありません。お電話いただいてたみたいで)
今日あったことを話した。 ただ、ひどい態度をとられたことは言わなかった。
「それで、おかゆもフルーツも全部食べたし、大丈夫だと思います。一応、わたしの連絡先は渡しておきました」
(何から何まで本当に申し訳ありません)
「気にしないでください。困った時はお互いさまだって、わたしのまわりの大人たちはいつも言ってます」
(ありがとうございます)
電話の向こうで、葵さんが笑ったのがわかった。
清風さんは退院してしまったけれど、 どっちにしろ葵さんは一度こっちに来ると言っていた。
「ホントにすみません。お願いします」
お屋敷を出ると、マスターに電話をして大まかなことを話した。 清風さんが勝手に退院したこと、意識を失ったのは睡眠薬のせいらしいこと、そして何も食べていなくて倒れたこと。
今から何か買いに行くと言うと、マスターは 「まずは胃にやさしいものがいいだろうから、おかゆ作ってあげるよ」 と言ってくれた。
清風さんが現金を差し出して「それを持って帰ってもらえませんか」とか、「助けてなんて頼んでない」とか言ったことは話していない。 でももし話しても、マスターはきっと同じことを言ったと思う。
コンビニで飲み物やバナナ、エネルギーゼリーなどを買い込み、外に出るとタクシーを止めた。
Café leafまで歩けば15分くらい。普段なら歩く距離だけれど、床に転がったままのあの人を思うと気が急く。
「あら? あんた」
タクシーに乗り込んだ途端、ルームミラー越しに運転手さんと目が合った。 さっきの運転手さんだった。
「雅楽川さんとこの別荘、すぐわかったじゃろ?」
「あ、はい」
「立派じゃったじゃろ?」
「はい。あの、土堂のcafé leafまでお願いします」
着くと、タクシーを待たせて店に入った。 けっこうお客が入っている。
「あ、咲和ちゃん。これこれ」
奥さんがテイクアウト用の紙袋に入れたタッパーを渡してくれた。
「すみません。忙しいのに」
「いいっていいって。早く行って食べさせてあげて」
「咲和ちゃん、これも持って行って」
マスターが奥から顔を出し、小さなタッパーを置いた。
「フルーツ切って入れといたから」
「ありがとうございます」
タクシーに戻り、また雅楽川の別荘へ向かった。
清風さんは相変わらず床に転がっていた。
「生きてます? ずっとそうしてたんですか?」
じろっとこっちを見る。 ……変な人。
「わたしのバイト先のマスターがおかゆ作ってくれたんです。 ずっと食べてないなら胃にやさしいものがいいからって。 あと、適当にいろいろ買ってきました。起きれます?」
しゃがんで、清風さんが起きるのを手伝う。 上半身を起こした清風さんと至近距離で目が合い、咄嗟に目をそらした。 いくらおかしな人でも、こんなにきれいな顔が近くにあるとドギマギする。
「とにかく、ソファに座ってください。ほら、自分で立って。わたし用意してきますから」
キッチンへ行き、食器棚から器を取り出す。 タッパーを触るとまだ温かい。 寒いわけじゃないし、このくらいならいいかと、そのまま器に移した。
スプーンを添えて持っていくと、清風さんはソファに座って水を飲んでいた。
「動けるじゃないですか」
「動けないとは言ってない」
ペットボトルのキャップを閉めてテーブルに置く。 その仕草はやっぱり疲れているように見えた。
「はい、これ。café leafのマスター特製卵がゆ。美味しいですよ。食べたことないけど」
清風さんがじろっと視線をよこす。
「だってマスター料理上手だし」
清風さんはスプーンを取り、おかゆをすくって口に運んだ。
「どうですか? 美味しいでしょ?」
「ぬるい」
「…………」
しばらく黙っておかゆを見つめていたけれど、またスプーンを動かし始めた。 ほっとして、なんだかうれしくなった。
「フルーツも持たせてくれたんです。持ってきますね」
結局、清風さんはおかゆを全部平らげた。
「何かあったら連絡してください。これ、わたしの連絡先です」
わたしが帰ったら捨てるのかもしれないけれど、清風さんは差し出したメモを受け取った。
「それじゃ」
応接間を出ようとしたとき、清風さんは何か言いたげだった。 けれど結局、何も言わなかった。
今日はもうアルバイトはいいと言われていたので、そのまま家へ歩いて帰る。 なんか後頭部が痛いと思ったら、さっき押し倒されたときに打ったせいだ。
スマホが鳴った。 取り出すと葵さんからだった。
「もしもし?」
(申し訳ありません。お電話いただいてたみたいで)
今日あったことを話した。 ただ、ひどい態度をとられたことは言わなかった。
「それで、おかゆもフルーツも全部食べたし、大丈夫だと思います。一応、わたしの連絡先は渡しておきました」
(何から何まで本当に申し訳ありません)
「気にしないでください。困った時はお互いさまだって、わたしのまわりの大人たちはいつも言ってます」
(ありがとうございます)
電話の向こうで、葵さんが笑ったのがわかった。
清風さんは退院してしまったけれど、 どっちにしろ葵さんは一度こっちに来ると言っていた。

