極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
「うそ……」
「嘘じゃない。陳さんはちゃんと俺達の陳述書を持っていたし、会議の日程も言ってくれた。名刺にも『陳』って書いてあった」
ぱあっと明るく笑う浪川さんに、目頭が熱くなる。こんなことが起きるなんて驚きだ。
頑張っている人は、ちゃんと神様が見てくれている。お祭りの時も神様が手を貸してくれて──と、思った時。
私の頭の中に浮かんだのは、神様なんかじゃなくて、凌さんの綺麗な微笑み。
そして『俺にはこの問題を解決出来る力がある』と言ってくれた力強い言葉。
心臓がドクンと大きく鼓動する。
ひょっとして今まで、手を貸してくれていたのは……凌さん?
そう考えていると、浪川さんが「茉莉ちゃん」と、私の手を握った。
「な、浪川さん? どうしたんですか?」
浪川さんの熱を帯びた視線に、目を泳がせてしまう。
「茉莉ちゃん。こんな時に言うことじゃないかも知れないけど。俺が茉莉ちゃんを支える。茉莉ちゃんのお店の再建も手伝わせて欲しい。だから──」
浪川さんの口が次の言葉を言おうとしたとき、私は咄嗟に「だめっ」と、声を上げた。
そして握られた手を自分の胸元へと引き寄せ、体を一歩後ろに引いた。
私と浪川さんの間に距離が生まれる。
「……茉莉ちゃん」
「ごめんなさい。私……」
浪川さんの気持ちは、恋愛ベタな私でも分かった。
それでも断る言葉を探した瞬間、頭に浮かんだのは──琥珀色の瞳で微笑む、凌さんの顔だった。
「私『大事』な人がいるんです。浪川さんの気持ちは、すごくありがたいです。でも、ごめんなさい」
浪川さんは一瞬だけ目を見開いて、それから、ふっと困ったように笑った。
「そっか……分かった。変なこと言ってごめんね」
ははっと乾いた浪川さんの笑いが、空っぽのお店に馴染んでしまう前に浪川さんは「じゃ、また」と、パタパタとお店を出て行った。
私はその去り行く足音を聞きながら、目をそっと瞑る。
頭に浮かんだのことは凌さん。
しばし、ゆっくりと深呼吸をする。
「……よし。お店の片付けを再開しようかな。お店の傷んでいる場所を確認しなくちゃ」
それから、仕入れを頼んでいた業者さんに連絡や、新しいキッチンの冷蔵庫のチェック。
SNSはこまめに更新してお店再開ブログにしようとか、色々とやることはある。
感傷に浸る暇はない。
頑張ろう。
私はぐっと背伸びをしてから、体を動かし始めるのだった。