極上チャイナマフィアは、健気なカフェ店主を逃がさない
琥珀色の瞳が、すぐ近くで私を見つめていた。
いつもの余裕はどこにもない。
切ないほどまっすぐな視線に、喉がこくりと鳴る。
私に出来た返事は、小さく頷くことだけだった。

「……いい子だ」

凌さんの指が、私の髪をゆっくりと梳く。

「俺のことを全部知ってくれ。心も……俺が隠してきたものも。昼と夜は交わらないが、月はいつだって輝いている。俺にとっての月は茉莉だけだ」

どこか詩的で情熱的な口説き文句に、顔が熱くなる。

「うっ……あの、その」

「ここじゃ、ゆっくり話せないな。茉莉、俺と一緒に来てくれるか」

「え、どこへ……」

「ホテルだ」

「ほ、ホテルっ!?」

思わず声が裏返る。
ホテルという単語にさっきの「全部知ってくれ」が繋がって、頭の中でぐるぐると回り出した。
もしかして、オトナな意味なのかと勘ぐってしまう。
凌さんは私の慌てぶりに、くすっと喉の奥で笑った。

「話をするだけだ……今のところは」

「い、今のところはって!」

耳元に唇が寄せられる。

「──我会永远爱你」

吐息まじりの、聞き慣れない響き。
意味は分からないのに、胸の奥がきゅうっと締めつけられた。

「い、今、なんて言ったんですか」

「あとで嫌というほど教える」

凌さんはくすりと笑った。

「だから茉莉、俺と来い。嫌だというなら、今ここでキスをする」

「そんなの狡くないですかっ」

「確かに狡いな」

凌さんの親指が、私の唇の端をそっとなぞる。

「じゃあ、逃げろ。逃がす気はないが」

──そんなの、逃げられるわけがない。

鼻先が触れそうな距離。
凌さんの吐息が唇にかかる。
心臓が痛いほど高鳴っているのに、足は一歩も動かなかった。
琥珀色の瞳の中に、頬を染めた私が映っている。
逃げない私を見て、凌さんの瞳がふっと細められた。

私は、そっと目を閉じた。

この人のどんな秘密も、全部受け止めたい。
隣にいたいと心から思った。
やがて、甘くて柔らかな熱が静かに唇に重なる。
触れるだけの優しいキス。それだけで心も体も蕩けてしまいそうで、自然と涙があふれた。

離れる間際に、凌さんが小さく囁いた。

「──茶より、今は茉莉が欲しい」

唇が離れても、私の体温はいつまでも下がらないままだった。
そんな夢見心地のまま、凌さんに抱きしめられ、私は何も言わずに身を凌さんに委ねた。

温かな腕の中で今日は朝帰りになるのかな、なんて思ってしまうのだった。

完
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