公爵様に、「父親と歳が近い男は嫌だろう?」と言われましたが、私そんなに若くないですけど。
「いや、なにか揉めていたのではと」
「え?揉めていたのかしら?」
ルークスも首を傾げる。
「人の気配を感じて去ったので、少なくとも彼女たちはそう思っていたかと」
ラベンダーの瞳が見開き、すぐにふわりと笑みに変わった。
「まあ。ふふ!そうなのね。だから貴方、あんなわざとらしい咳ばらいを……!ふふふ」
そんなに笑うことだろうか。たしかにわざと咳ばらいをしたのは初めてのことだが。
善意でした行動を笑われ、不快に思っても良いのにルークスは不快に感じなかった。食い入るように少女を見つめる。少女はルークスの視線に気づき、笑うのを止めた。
「あ……助けてくださり感謝いたします。騎士様」
「何故、私を騎士だと?」
「そのように立派な体躯をお持ちで、騎士でないはずがありません」
言われてみればそのとおりだ。加えて北部の者は背も高い。
「正解です。おせっかいな事をしてしまったでしょうか?先ほどは何を揉めてらしたのです?」
「え?」
令嬢は驚いたように聞き返した。ルーカス自身も自分の問いに驚いた。初めて会った女性とここまで会話が続いたことにもそうだが、踏み込んだ事を聞くのも初めてだからだ。
その令嬢は不快な雰囲気も見せず、朗らかに言った。
「気になりますか?」
「ええ。時間を持て余しておりまして」
ラベンダーの瞳がまた笑みの形になる。
「ふふ。ではお話しましょう。私はシエナと申します。騎士様のお名前は?」
「……ルークスです」
シエナが噴水に腰かけようとしたので、ルークスは「お待ちを」と言い下にハンカチーフを敷いた。
「ありがとうございます。私は今日が社交デビューだったのですが、先ほどの令嬢達に社交界のルールを教えてあげると言われました」
「ほう」
デビューと言うと、16歳くらいの年頃だろうか。自分との歳の差を考え、何故か気分が少し下がる。。
「何でも帝都の社交界には、氷晶の貴公子と呼ばれる……高嶺の花のようなご令息がいるみたいなのですが、かの方にはどんなに心奪われようとも、決して近寄らず、声をかけず、皆が平等に愛するように。との暗黙のルールがあるそうなのです」
「……初めて聞きました」
「あら。やはり男性には精通していないルールなのですね」
そのような暗黙の掟があったとは。やはり社交界は恐ろしいところだ。
「誰だか分かりませんが、気の毒な事ですね」
ルークスが言うと、シエナは意外そうに口を開いた。
「そう思いますか」
「ええ。その令息も、レディとの交流を目的に……しいては婚姻のために、夜会に来ているはずでしょう?端からその枠に入れてもらえないなどと……気の毒でならないな」
顔をしかめて言うと、シエナが深く頷いた。
「なるほど。たしかに。私は女性からの目線で言うと、気になるのなら積極的にいかなければと思いまして。だって見ているだけでは、誰かに奪われたり、手が届かない所へ行かれたり……叶うものも叶わないではないですか」
ルークスは目を瞬いた。
(ずいぶんと、はっきりとした性格のご令嬢だな)
ルークスが動けば、その風圧で倒れてしまいそうなほど華奢な身体で、瞳には力強い意志が宿っている。
(面白い方だ)
シエナに言われたことは、ルークスの心に思いのほか響いた。今までの自分も、気になる女性はいなかったが、望みはあるのに見ているだけではなかったか?自分から努力もせずに、誰かに選んでもらおうなどと、傲慢も甚だしい。
(ノルマンの血を途絶えさせたくはない。努力しなければ)