公爵様に、「父親と歳が近い男は嫌だろう?」と言われましたが、私そんなに若くないですけど。
「シエナ嬢?」
ルークスの想いを具現化したのか、入店してきたのはシエナだった。
藍色の髪をゆるく編み込み、華やかな水色のドレスを着ている。シエナの瞳がルークスに気付くとパッと輝いた。
「閣下。どうしてこちらに?」
「私は母上の使いだ。君は……」
シエナの顔色が曇り、素早く手でお腹の近くを隠した。
「……?どうした」
見ると、手だけでは隠しきれない染みが付いている。一緒に入店したメイドが代わりに説明する。
「お召し物が汚れてしまったので、邸宅に帰るまでなにか羽織ものを見繕おうと……」
「飲み物をこぼしたのか?」
「はい……」
シエナが下を向く。
「熱くはなかったか?やけどは?」
ルークスは思わず肩を掴んでしまった。
「あ、すまない」
そう言い、手を離す。シエナは顔をあげ、ぽかんとルークスを見た。そしてはにかむ様に笑顔になった。
ルークスの咄嗟に離した手が、そのまま固まる。
ルークスは知らなかった。気になっている人の笑顔を至近距離で見てしまうと、時が止まると言うことを。
「お茶は冷めていたので大丈夫です。心配させてしまい、すみません……閣下?」
固まったルークスをシエナが訝し気に見つめる。
「団長」
オルドの声に我に返る。
「そろそろ行かねば。次のご予定に間に合いません」
「あ、ああ。そうだった」
今日と言う日に限って皇帝から登城するように言われていた。心中で思わず舌打ちをする。
「ジェイソン!」
ルークスは店の二階に向かって言った。
「はい!閣下、お忘れ物でしょうか?」
黒のタキソードを着崩した従業員が階段を降りて来た。他の店員とは制服が違う。
このドレスショップは昔からの馴染みだった。先ほどもルークスの相手をしていたのはオーナーのジェイソンだ。
「この女性にドレスを見繕ってくれ。支払いは私に」
「えっ!閣下、そんな……」
シエナは驚いて声をあげた。
「本当は一緒に選びたかったのだが、今日はもう行かねばならない。次に会う時にまた着て来てくれると嬉しい」
「でも……」
「きゃあ~!閣下!閣下がそんなことを……!おまかせください!どんな色のドレスが良いかしら~!」
シエナの戸惑いは興奮したジェイソンによってかき消された。
(彼はなぜか気が高ぶると女性的な話し方になるな)
ジェイソンにより、あっという間に奥へ連れて行かれたシエナを見送る。そして残されたメイドに向き直った。少し引っかかることがある。
「彼女は自分でお茶をこぼしてしまったのか?」
「あ……ええと」
威圧をしているつもりはないのだが、女性とまともに話せないのはルークスだけの責任ではない。女性側も萎縮しすぎてしまうらしい。
(とはいえ、この鋭い目つきも体格も、自然なものなのでどうしようもない)
オルドが代わった。
「では、今日はどちらのティーパーティーだったのですか?」
「ハインツ邸です」
「ふむ。ありがとうございます。では、我々はこれで」
店を出てオルドに視線を送ると、オルドは心得た顔をして頷いた。
「ティーパーティーの詳細と、出席者の名簿で良いですか?」
「ああ。今日中にあげてくれ」
オルドが一礼して下がり、ルークスは馬車に乗り皇城で向かった。