強欲の公爵と呼ばれた元護衛騎士は、私と結婚するためだけに成り上がったらしい
「はっ、離しなさい!」
引き攣った声で言うと、掴んだ手がすぐに離れた。
「殿下、私です」
切迫した声にアーリアはその人物を見上げだ。
「ライカン?」
アーリアは全身の力が抜け、かくりと膝が折れた。ライカンが慌てて支える。
見るとライカンは肩で息をしている。夜会で着ていた衣装のまま、上着だけを脱いだのだろう。訓練でもしたのか汗だくだ。
ライカンが護衛騎士だった頃、目を盗んで抜け出すアーリアを、汗だくで探していた姿と同じだった。
「‥‥‥‥‥」
ライカンは怒りの表情を浮かべ、口を開いた。
「‥‥っ!‥!」
が、声なき声を出しただけで、項垂れた。
「‥‥‥殿下の、お転婆がなくなったと思っていたのですが、杞憂でした」
怒りを堪えて冗談を言うのは、ライカンの昔からのクセだ。一旦冷静になり、後々、長々と説教されるのだ。
アーリアの止まった涙がまた流れた。ぽろぽろと流れ、アーリアは咄嗟に手で覆った。
ライカンが慌てている。
「殿下?もしや何かあったのですか」
語尾には怒りが籠もっていて声が低い。
アーリアは慌てて答えた。ライカンが心配するような事は何もない。
「ち、違う。嬉しくて」
短い時間で二度も泣くとは自分でも驚きだ。思っていたよりもずっと、ライカンは自分にとって特別な存在になっていた。
泣くほど離れたくないし、泣くほど嬉しい。
「ライカンが、前みたいに、わたくしに接してくれて‥‥」
「‥‥‥」