ベリーズカフェ15周年記念オリジナル短編『端的に言って恋だった』水守恵蓮/著
「自分自身の興味を向けるべき方向を間違っていた……と言いますか」
そっと彼に視線を戻すと、その目元は訝しげに歪んでいる。
「えっと……怒らないで聞いてくださいね」
私はちょっぴり緊張を混じえ、肩を力ませて前置きをした。
「歌舞伎に出てくる女性の仕草って、本物以上に女らしいですよね。だから演じている男性自身もその……そういう一面があるんだろう、と思ってて……あ、違います、間違えました!」
途中で、柏木さんが眉をひそめたのを見て、慌てて勢いよく首を横に振る。
「それは先入観というよりただの偏見です! ごめんなさいっ」
一息で謝罪して深々と頭を下げると、頭上から深い溜め息が降ってきた。
「まあ、あなたに限らず、素人はみなそんなもんです。……それで?」
忌々しそうではあるものの、話の続きを促され、私はホッとしながら顔を上げた。
「今回の取材に入る前、素人なりに私がまず疑問に思ったのは、どうして柏木さんは女形になったんだろう?でした」
自分の中で考えを整理しながら、慎重に言葉を選んで答える。
「当時、女形が不足していたとか、そういう背景もあったかもしれません。それなら当然、何故今、当代一の女形役者と言われるまでに成長したのか……という興味に繋がるわけでして」
半ば自分に問いかけながら続けて、その言い回しで納得して首を縦に振った。
「あなたといると、次から次へと興味が湧くんです。でも藤川園十郎を取材するだけでは、興味は興味のままで終わってしまう。だって私が突き詰めて知りたいのは、柏木志信さんという一人の男性であって、藤川園十郎という歌舞伎役者ではなかったから」
私が断言すると、柏木さんがハッとしたように息をのんだ。
「だから歌舞伎について勉強するよりも、柏木さんについて知ろうと考えて臨むべきだと考えたんです」
見開かれた切れ長の目が、ほんのわずかながら内心の動揺を物語っている。
けれどそんな変化もほんの一瞬。
柏木さんは私から目を逸らすと、焼菓子の箱に視線を動かした。
「それでこの差し入れ……というわけですか」
「これでも情報収集能力はある方なんです。合っていたでしょう?」
「……そうですね」
口調は素っ気ないけど、柏木さんは目を細めていた。
薄い唇の端はわずかに上がっていて、表情はどこか満足そうにも見えるから、なんだか私まで嬉しくなる。
終演後の楽屋で、彼の好物だというお菓子を食べながら、共にお茶を飲んで会話をする。
ただそれだけのことなのに、昨日までよりも柏木さんが近くにいる、そんな気がして心が弾んだ。