あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
「将来のこととか」
「将来?」
「うん」
「俺、何になりたいって言ってた?」
「……忘れた」
嘘だった。
本当は覚えている。
『好きな人と、普通に暮らせたらいい』
あの日、
湊はそう言っていた。
「美月?」
「なに?」
「なんか今、泣きそうだった?」
「……気のせい」
「そっか」
湊はそれ以上聞かなかった。
しばらくして、
小さく口を開いた。
「昨日さ」
「うん」
「家で、昔のものを見てた」
胸が少しだけ跳ねる。
「それで?」
「美月との写真がいっぱいあった」
「……そうなんだ」
「でも、不思議なんだよ」
「何が?」
「写真を見れば、俺たちが仲良かったことは分かる」
湊はスマートフォンを見つめる。
「でも、そのときの気持ちが思い出せない」
私は何も言えなかった。
「美月のことを大切にしてたのは分かる」
「……うん」
「でも、好きだったっていう感覚だけが、どこかに消えてる」
胸が痛くなる。
「ごめん」
湊が言った。
「なんで謝るの?」
「だって、美月は覚えてるんだろ?」
「……うん」
「俺だけ忘れてる」
「それは湊のせいじゃないよ」
「でも」
湊は私を見る。
「美月が悲しそうな顔するたびに、申し訳なくなる」
私は笑った。