あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
水族館の中は、青い光に包まれていた。

大きな水槽を泳ぐ魚たち。

ゆっくりと揺れる水の影。

隣を歩く湊。

それだけで、世界が少し優しく見えた。

「見て、湊!」

私は水槽の向こうを指さした。

「クラゲ!」

「おお……」

湊は水槽に近づいた。

「なんか、ずっと見てられるね」

「でしょ?」

「美月、こういうの好きなんだ」

「うん。綺麗だし、見てると落ち着くの」

湊は私を見た。

「そっか」

「なに?」

「美月のこと、また一つ知れた」

私は笑った。

「そんなことでいいの?」

「そんなことがいいんだよ」

湊は水槽に視線を戻した。

「俺、美月のこと、全然知らないから」

その言葉に、胸が少し痛くなった。

昔は、私の好きなものを全部知っていた。

好きな食べ物も。

苦手なものも。

落ち込んだときに、どうしてほしいかも。

でも今は、また一つずつ教えていかなければならない。

「じゃあ、いっぱい教えてあげる」

私が言うと、湊は笑った。

「うん。全部教えて」

その横顔を見ながら思った。

この時間が、ずっと続けばいいのに。
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