あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。


水族館を出たあと、二人で海沿いを歩いた。

少し冷たい風が吹く。

湊が私の歩幅に合わせてくれる。

「美月」

「ん?」

「今日、楽しい?」

「うん。すごく」

「よかった」

湊は安心したように笑った。

「俺さ、ちょっと不安だったんだよね」

「何が?」

「美月が、昔の俺と比べてるんじゃないかって」

私は足を止めた。

「……比べてるよ」

正直に答えた。

湊は少し驚いた顔をした。

「そっか」

「だって、昔の湊も大好きだったから」

言ってから、少し恥ずかしくなった。

でも、嘘はつきたくなかった。

「昔の湊は、もっと恥ずかしがり屋で、すぐ顔が赤くなって」

「それ、今もじゃない?」

「ふふっ。そうかも」

「あと?」

「私が落ち込んでると、何も聞かずに隣にいてくれた」

湊は黙って聞いていた。

「私が好きな本も、好きな食べ物も、全部覚えてくれてた」

「……うん」

「だから、時々思っちゃうの。あの頃の湊に、もう一度会いたいって」

湊は海を見つめた。

そして、少しだけ寂しそうに笑った。

「……ごめんね」

「どうして謝るの?」

「今の俺じゃ、昔の俺にはなれないから」

胸が締めつけられた。

「湊……」

「美月」

湊が私を見た。

「一つだけ、お願いしてもいい?」

「うん」

「昔の俺じゃなくて、今の俺を好きになってほしい」

私は息を止めた。

「……え?」

「昔の俺が美月をどれだけ好きだったのか、俺には分からない」

湊は自分の手を見つめた。
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