あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
「美月ってさ」
カフェに入って向かい合って座ると、颯が口を開いた。
「最近、何かあった?」
「え?」
「なんか、前より雰囲気変わった気がする」
私はストローを指先で回した。
「……好きな人ができたから、かな」
自分で言って、少し恥ずかしくなった。
颯は驚かなかった。
ただ、静かにうなずいた。
「そっか」
「うん」
「その人のこと、好き?」
「……うん。すごく」
答えた瞬間、湊の顔が浮かんだ。
笑った顔。
私の名前を呼ぶ声。
私のことを忘れてしまうかもしれないと、不安そうに話していた顔。
会うたびに、もっと好きになってしまう。
颯は、そんな私を見つめていた。
「美月はさ」
「ん?」
「好きな人のためなら、何でも我慢しちゃいそうだよな」
思わず顔を上げた。
「……どうして?」
「昔からそうだから」
颯は、カップを両手で包み込んだ。
「自分がつらくても、相手が大丈夫ならいいって思うだろ」
何も言い返せなかった。
図星だった。
湊の病気が進んだら。
私のことを忘れてしまったら。
いつか、私と一緒にいることさえ嫌になってしまったら。
そんな未来を考えるだけで怖い。
それでも、湊の前では笑っていたかった。
「……我慢してるつもりはないよ」
私は小さく答えた。
「好きだから、一緒にいたいだけ」
颯はしばらく黙っていた。
やがて、少し困ったように笑った。
「そっか」
そして、私をまっすぐに見た。
「でもさ、美月」
「うん?」
「美月自身も、ちゃんと幸せになっていいんだからな」
その言葉に、胸が熱くなった。
誰かを好きになると、その人のことばかり考えてしまう。