あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
土曜日。

待ち合わせ場所に着くと、颯はすでに来ていた。

「お、こっちこっち!」

私に気づくと、いつもの笑顔で手を振る。

「ごめん、待った?」

「いや、俺も今来たところ」

「それ、絶対うそでしょ」

「バレた?」

「美月、昔から時間ギリギリだもんな」

「ちょっと! そんなことないし!」

「いやいや、大学のときなんかさ――」

「その話はしなくていい!」

二人で笑いながら歩き出す。

懐かしい。

颯といると、大学時代に戻ったような気持ちになる。

難しいことを考えず、ただ笑っていられる。

そんな時間だった。

昼食を終えたあと、私たちは近くの雑貨屋をのぞいた。

かわいいマグカップを見つけて、二人でふざけ合う。

「これ、美月っぽくない?」

「え、なんで?」

「なんか、ちょっと抜けてる感じが」

「それ褒めてないよね?」

「褒めてる、褒めてる」

颯は笑いながら、マグカップを棚に戻した。

その横顔を見て、私はふと思った。

颯は、私のことをよく知っている。

好きな食べ物も、苦手なことも。

落ち込んだときに、そっとしておいてほしいことも。

何も言わなくても気づいてくれる。

きっと、私がどんな人間なのか、湊よりもずっと知っている。

……でも。

だからといって、湊への気持ちが変わるわけじゃなかった。
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