あなたが私を忘れても、わたしはあなたを忘れない。
翌日の昼過ぎ。

私は莉奈と待ち合わせをしていた。

指定されたカフェに入ると、莉奈は窓際の席に座っていた。

「……美月ちゃん」

私に気づくと、莉奈は少し緊張したように立ち上がった。

「急にごめんね」

「いえ……私も、莉奈さんと話したいと思っていました」

向かい合って座る。

何を話せばいいのかわからず、私は膝の上で手を握りしめた。

先に口を開いたのは、莉奈だった。

「昨日のメッセージ、嫌な気持ちにさせたよね」

「……少しだけ」

正直に答えると、莉奈は静かにうなずいた。

「うん。そうだよね」

彼女はカップに視線を落とした。

「でも、知っておいてほしかったの。湊のこと」

「……病気のことですか?」

「うん」

莉奈は、ゆっくりと顔を上げた。

「美月ちゃんは、湊の病気について、どこまで知ってる?」

私は答えられなかった。

湊の記憶が失われていくこと。

人のことを忘れてしまうこと。

それくらいしか、知らなかった。

莉奈は、私の沈黙を見て、小さく息を吐いた。

「湊の病気はね、ただ昔の思い出を忘れちゃうっていうだけじゃないの」

その言葉に、胸がざわついた。

「症状の出方は人によって違うし、これからどう進むかも、簡単には言い切れない。でも、湊は少しずつ、日常の中でも困ることが増えてきてる」

「……日常?」

「うん」

莉奈は、ひとつずつ言葉を選ぶように話し始めた。
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