愛する人の代わりにはなれますか【10/10完結】
椎名くんは、少しだけ目を伏せた。
───その長い影が、彼の冷めた瞳を隠す。
「別に、犠牲だなんて思ってませんけど」
「……!」
「俺が勝手にやってるだけです」
あまりにもあっさりと言い放たれて。
先生の眉が、耐えかねたように歪んだ。
「そういうところが……」
「?」
「そうやって、何でも自分だけで決めて……」
先生の声が、激しく震える。
「自分がどうなってもいいみたいに言わないで……!」
「…………」
───初めてだった。
どんな言葉も飄々とかわしてきた椎名くんが、何も言い返さなかったのは。
ただ静かに、先生の言葉を待っている。
「───あなたは由宇じゃない」
先生は溢れる涙を拭うこともせず、椎名くんを真っ直ぐに見つめる。
「だから……由宇の代わりになんて、ならなくていい」
「…………」
「私が由宇を失ったからって、あなたまで由宇になる必要なんてないの」
張り詰めた保健室に、先生の悲痛な声だけが響く。
椎名くんは、しばらく何も言わなかった。
───そして。
「……そうですか」
ぽつりと、それだけ。
返ってきたのは、どこか拍子抜けするくらい、あっさりとした返事だった。
───けれど。
その横顔が、瞳が。
ほんの少しだけ、泣き出しそうに揺れて見えたのは。
……私の気のせいだったのだろうか。


