愛する人の代わりにはなれますか【10/10完結】


「……俺は、由宇(ゆう)の弟です」


───そう、静かに告げた。



椎名くんの声は、まるで、何かから逃げているかのように震えていて。


転校当初のように、どこか心に壁をつくっているような冷たい響きだった。



「やっぱり…………」


先生もまた、震える声で言葉を絞り出す。

その瞳の奥に、チリッと小さな影が落ちた。



「俺が、この学校に来た理由。」


椎名くんは、淡々と続ける。


「……ナツさんが、大好きだった由宇を失ってどれだけ傷ついているのか。それを、確認しに来たんです」


ジワジワと暴かれる真実を前に、先生の瞳は困ったように揺れる。



「それで、」


椎名くんの口元に、ほんの少しだけ笑みが浮かんだ。


「もしだいぶヤバそーだったら」


一拍。


「俺が、代わりになってあげようかなーって」


その言葉が、静まり返った保健室に落ちた。


……それって。

そう思ったのと、先生が狼狽えるように口を開いたのは、ほとんど同時だった。



「あなたが、代わりに……?」


その言葉の意味なんて、深く考えなくてもわかってしまった。



大切な人を失って傷ついた心を、椎名くんが代わりに癒す。


”由宇”の代わりになって。

先生のそばにいる。



それは、つまり──。


< 5 / 6 >

この作品をシェア

pagetop