愛する人の代わりにはなれますか【10/10完結】
「俺が“由宇”になって、センセーを慰めてあげるってコトです」
「…………」
先生は、何も言わなかった。
ただ、ひどく困ったように眉を寄せて椎名くんを見つめている。
果たしてその言葉の意味を理解しているのか、していないのか。
……たぶん、理解している。
だって“慰める”なんて言葉を、椎名くんがわざわざこんなふうに口にした意味。
それが、ただ心を慰めるというだけじゃないことくらい。
私にだって、わかってしまったから。
「……そんなこと、あなたにしてほしいわけじゃない」
掠れた声で、先生がつぶやく。
すると椎名くんは、ほんの少しだけ目を細めた。
「───でも」
静かな声。
「センセーは、まだ由宇を必要としてるでしょう?」
「……っ」
図星だったのか、先生の肩がビクッと跳ねる。
「俺が俺としてそばにいても、センセーは俺の中に由宇を探してる」
その言葉に、先生は何も返せなかった。
───否定できない。
きっと、それが答えだった。
椎名くんは、そんな先生をじっと見つめている。
責めるでもなく。
悲しむでもなく。
ただ、すべてをわかっているような目で。
「……だったら」
椎名くんは平然と、まるで何でもないことのように言った。
「俺でいいじゃないですか」
「……え?」
「俺を由宇だと思えばいい」
淡々とした声だった。
……そこに、寂しさも悲しさもない。
ただ、本当にそれが一番簡単な方法だと思っているような声音。