恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 神楽坂に軽く頭を下げ、その場を辞そうと和香が足を踏み出した、まさにその時だった。

「……う…、ええん、」

 高級ホテルのメインエントランスから少し離れた、街路樹の影になっている歩道の脇から、かすかなすすり泣きが聞こえてきた。

「え…?」

 和香は足を止め、暗がりの方に目を凝らした。
そこには、小さな背負いかばんを抱えた、小学校低学年ほどと思われる男の子が一人、ぽつんと佇んで泣いていた。

「こんな時間に……?」

 思わず声を漏らした和香は、神楽坂のことなど一瞬で頭から吹き飛び、慌てて駆け寄った。男の子の前に視線を合わせるように深く屈み込み、優しく声をかける。

「どうしたの?大丈夫…?お父さんやお母さんは?」

 男の子は涙で濡れた大きな目を上げ、しゃくりあげながら途切れ途切れに答えた。

「お、おかあさん……探してて……っ。電話しようと思ったのに、ポケットから……スマホ落としちゃって……っ」
「スマホを…?そっか、落としちゃったんだね」

 和香は男の子の小さな背中を優しく撫で、安心させるように微笑みかけた。
このホテル周辺はオフィスと高級マンションが立ち並ぶエリアで、夜になると街灯はあるものの、人通りが急激に少なくなる。
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