恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~
―家族。

 今の和香にとって、実家の家族とは“縛り付ける鎖”でしかなかった。
溺愛する妹のことだけは命にかえても守りたいと思っているが、両親に対しては諦めと冷めた感情しか湧いてこない。
 
 映画館の近くにある、ガラス張りの洗練されたおしゃれなカフェへ入った。
店内は休日のデートを楽しむカップルたちで埋め尽くされている。
 二人でテーブル席に腰を下ろすと、まるで自分たちも周囲と同じ“仲睦まじいカップル”の一組として見られているのではないかという錯覚に陥り、ソワソワする。
 それぞれアイスコーヒーを注文し、和香は少しだけ自分へのご褒美のつもりで、ショーケースに飾られていた真っ赤ないちごのタルトも一緒に頼んでみた。
 特にダイエットをしているわけではないのだが、普段は甘いものを口にする余裕すら削られていたため、甘いタルトをフォークで崩す感覚すらどこか新鮮だった。

「家族って……本当は、あんな風に温かいものなんだよね」

 サクサクとしたタルト生地を一口噛み締めながら、何気なく吐き捨てた一言。
それに、対面に座る帆高が反応した。

「そうですよ。本来は、そういうものです」
「ふふ、そうだよね。なーんか、ちょっと羨ましくなっちゃった。…親が決めた政略結婚の相手と結婚して、あんな温かい家庭なんて作れるのかな」

 ふっと力なく笑ってみせた和香に対し、帆高は手にしていたグラスを静かにテーブルへ置いた。カチャリと氷が鳴る。

「自分が決めた相手と、作ればいいんです」
「……え、」
「そうでしょ。和香さんは、自分の意志で未来を選ぶ人です。俺なら、和香さんと一緒にあたたかい家族になれる自信がありますよ」
「……あー、ま、そういう“フリ”の練習、ね……」

 動揺を隠すように引きつった笑顔を浮かべ、フォークでタルトの苺をつつく。
だが、偽の恋人という演劇の最中にしては、彼の言葉はあまりにも重く、真に迫りすぎていた。
 その時の帆高は、ふざけたような表情を欠片も見せていなかった。

 長くて綺麗な睫毛の奥にある深い瞳が、真っ直ぐに、吸い込まれそうなほど強く和香の存在を射抜いていた。
その眼光から、目が離せない。
 まるで一度捉えられたら二度と逃がしてはくれない蜘蛛の糸のように、和香の全身の動きを封じ込めていた。

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