恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
だが、そんな大人しかった海に、初めて“心から好きになれる人”ができたのだ。同じ高校に通っていた同級生で、以前一度だけ挨拶を交わしたことがあるが、とても爽やかで心優しい好青年だった。

 しかし、彼の実家は至って普通の一般企業に勤めるサラリーマンの家庭。 当然のごとく、厳格で家柄を重視する和香たちの両親は大反対した。
 表面上は親の言いつけ通り別れたかのように装っていた二人だったが、陰では密かに愛を育み続け、生涯を共に生きていく約束を交わしていたのだ。
 二人が結ばれるためには、家を飛び出し、両親と縁を切って二人だけで生活していく―つまり“駆け落ち”をするしか道はない。

(それだけの覚悟を、あの大人しかった海が決めたんだ……)

 妹が踏み出そうとしている大きな決断を、和香は姉として心から誇りに思っていた。
 親の顔色ばかりを伺い、用意されたレールの上をただ歩かされるだけの人生なんて、幸せになれるはずがないのだから。
 海が自分の意志で選んだ未来を、何が何でも全力で守り抜いてあげたい。 そのためには…―。

「……まずは、私が親の持ってきた政略結婚を完全に叩き潰さなきゃ」

 和香が“偽の恋人”を作って時間を稼いでいる間に、海の駆け落ち計画を裏で完璧に成功させる。
 自分の未来だけでなく、妹の人生をかけた作戦が今まさに動いているのだと、和香はベッドから体を起こすと、強く拳を握りしめた。

(……でも、海を無事に逃がせたとして、そのあと私はどうするつもりなんだろう)

 和香は画面の消えたスマホを胸の上に抱えたまま、天井を見つめた。
本当は、帆高を『仮の恋人』として両親に提示し、説得や引き延ばしを図っている間に海をなんとか逃がす手はずだった。
 親の逆鱗に触れ、今の会社を辞めさせられることだけは既に覚悟の上だ。 けれど、妹が無事に逃げ切った後、自分の人生はどうなる?
 このまま実家に戻り、親に従えば政略結婚だけは免れることができるだろうか。

いや、そんなはずはない。

 一度実家の支配下に戻ってしまえば、例え「帆高と真剣に交際している」と主張したところで、親は何が何でも二人を強引に引き離し、別の都合の良い相手と結婚させようとするに決まっている。

(だったら……会社も、実家も、これまで積み上げてきたキャリアも全部捨てて、姿を消す…?)

 それとも、すべてを投げ打って遠くの街へ逃げるべきなのか。
和香は深く、迷っていた。

 『妹を逃がす』という第一の目的を果たした後に待っている、自分自身の行き場のない未来に…―。
< 27 / 190 >

この作品をシェア

pagetop