恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 定時を過ぎた頃、社内の目を盗むようにして帆高が和香のデスクへ歩み寄ってきた。

「和香さん。この後、一緒に帰りませんか?」
「えっ……!?だ、ダメだよ、社内の人に見られたらややこしいし……!今日は一人で帰るから」

 慌てて周囲を気にしながら小声で断ると、帆高は「そうですか」と少しだけ残念そうに目を細めた。
 断ったことに安堵しつつ、和香は少し時間をずらして一人でオフィスを後にした。
 エレベーターで1階へと降り、オフィスのエントランスを出たところで…―和香は思わず足を止めた。
 ビルの大型モニターの明かりが照らす中、スーツのジャケットを軽く羽織った高い背格好の男が立ち尽くしていた。

(……久東くん?)

 断られたはずなのに、彼は社内の目を避けるようにして先回りし、エントランスの外で和香が出てくるのをじっと待っていたのだ。
 和香に気づくと、彼はフッと目元を和らげ、迷いのない足取りで近づいてくる。

「和香さん」
「な、なんで……!先に帰ってって言ったのに……」
「和香さんと少しでも一緒にいたくて」

 悪びれもせず、真っ直ぐにストレートな好意を投げてくる。
『仮の恋人』という名目の裏で、時折見せるこの容赦ない甘さに、和香の心臓がどくどくと跳ね上がった。
まただ。もう、彼をただの後輩として誤魔化すことなんて、とっくにできなくなっている。

「……本当、調子狂うなぁ……」

 半ば呆れながらも、胸の奥を満たす甘い喜びに逆らうことができず、二人は並んで駅へと続く夜道を歩き始めた。

その時だった。

「やあ、こんばんは。和香さんですね」

 不意に、前方の街灯の影から仕立ての良いスーツを着た見知らぬ男が歩み出てきた。
 品のある整った顔立ちに、どこか冷徹な雰囲気を纏わせた男だ。男は和香の前でピタリと立ち止まると、洗練された動作で優雅に会釈してみせた。

「初めまして。あなたの夫になる、神楽坂瑠衣と言います」
「……え……?」

 頭に大きなハンマーを殴りつけられたような衝撃が走った。和香は絶句し、困惑のあまり言葉を失う。
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