恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
 バタン、と重い防音扉が閉まる音が無人の会議室に響き渡った。
鍵がかかったことを確認すると、和香は即座に振り返り、目の前に立つ帆高と対峙した。周囲の目がないことを確かめ、抑えていた感情が一気に吹き出す。

「なんで、あんなこと言っちゃったの?噂を肯定したら余計に騒ぎになるよ。それに……私たち、本当に付き合ってるわけじゃないでしょう?」

 焦りと混乱が混ざった和香の問いかけに対し、帆高は一切動じる様子を見せなかった。
彼は至って冷静な表情のまま、まっすぐに和香を見つめて静かに口を開く。

「はい、そうですね。“まだ”本当に付き合ってるわけじゃないです」
「え……?」

言葉の意味を反芻する暇もなく、帆高が一歩、こちらへ踏み出してきた。

「っ……」

 その眼差しに宿る熱に圧倒され、和香は思わず後ずさった。
だが、二歩、三歩と引いたところで、背中にひんやりとした壁の感触が伝わってくる。逃げ場のない行き止まり。
 逃げ道を塞ぐように、帆高がすっと大きな手を壁についた。
至近距離に迫る彼の体温と、落ちる影。
 和香は足元に落としていた視線を、おそるおそる上げた。
目の前には、普段の“頼れる優秀な後輩”の顔を完全に捨て去り、一人の“男”としての感情を隠そうともしない帆高の顔があった。

「俺は、和香さんが好きですよ」

 耳元で響く低い声が、和香の鼓膜を甘く揺らす。

「先ほどの宣言は……俺が恋人として肯定すれば、社内の不躾な噂や悪意から和香さんを守れると思ったからです。けれど、」

 帆高はそこで言葉を区切り、少しだけ苦笑するような、切ない影を瞳に宿した。
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