恋の模範解答を教えて~年下君の甘い執着に落とされまして~【完結】
――だが、甘かった。

 和香が席に着いた瞬間、待ち構えていたかのようにののかが近づいてきて、フロア全体に響くような大きな声で問いかけてきたのだ。

「和香先輩。本当なんですか?帆高さんと……付き合ってるって」

 静まり返るオフィス。
突然突きつけられた不躾でプライベートな質問に、和香の顔が引き攣る。
一瞬にして、周囲にいた同僚や上司たちの好奇の視線が一斉に和香へと集中した。

「それは……っ……えっと、」

 喉がカラカラに乾き、言葉が詰まる。
ここで否定すれば帆高の立場やあの夜の出来事と矛盾してしまうし、肯定すれば二人の関係が決定的なものになってしまう。パニックで思考がフリーズしかけた、その時だった。

「そうです。付き合ってます」

 低く、通り通った声がオフィスの空気を切り裂いた。
ハッとして顔を上げると、後方の通路から歩み寄ってくる帆高の姿があった。
 ののかの瞳が、一瞬でアイスピックのように冷ややかなものへと変化する。
帆高は周囲の雑音など一切視界に入っていないかのように、真っ直ぐで強い目線を和香へ向けた。

何一つ迷いのない、堂々とした立ち姿。

「僕たちは付き合っています。社内で流れている噂は、すべて事実です。誰が意図して流したのかはだいたい見当がついていますが、くだらない噂話はこれで終わりにしてください」

 冷徹な眼光がチラリとののかを射抜く。
ののかは一瞬悔しそうに唇を噛み締め、視線を逸らした。

「帆高君……っ」

 あまりの展開に和香が息をのむ中、周囲からは「やっぱりそうなんだ」「嘘でしょ、あの久東くんが……」「意外すぎる……」といったヒソヒソ声が波のように広がっていく。
 けれど帆高は、そんな周囲の反応など毛頭気にする様子もなく、ただじっと和香のことだけを見つめていた。
このままここにいては、収まりがつかなくなる。

 和香は意を決して立ち上がると、帆高の視線を受け止めながら短く告げた。

「……帆高くん。ちょっと、いいかな」

 和香は彼を促し、周囲の視線を振り払うようにして無人の会議室へと向かった。

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